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【Vol.449】冷泉彰彦のプリンストン通信『選択肢のない英国と日本』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「一発入試は、格差フリーの公平な制度なのか?」  年収300万円台の世帯から東京大学に進んだ人の話として「一発入試で 決まる日本ほど夢のある社会はない」というコメントが話題になっていまし た。つまり、「経験を評価した選別」をすると格差の世襲になる可能性が強 いが、公平な一発入試なら誰でも逆転が狙えるというのです。  つまり、一発勝負の筆記試験で合否判定される仕組みは理想的なのかとい うことで、例えば、現役東大生ライターの布施川天馬という人は、「筆記試 験はどんな人にも公平だ」として「最近は経験などを評価できる推薦やAO 入試を重視するべきという声も聞かれる」けれども、そうなれば「経験をカ ネで買える富裕層ほど有利になる」というのです。  その例として、アメリカでは行き過ぎた経験重視がされており、格差の世 襲の元凶になっているという議論もあります。果たしてそうなのでしょうか?  まず、アメリカの場合ですが、経験をカネで買うと云々というのは、多分 ものすごく古い話だと思います。90年代の末に、アイビーリーグ校などの 入試が加熱しだした際に、「経験を買う」というのが確かに流行しました。 有名だったのは、エクアドルに一週間滞在して熱帯雨林の保全のボランティ アをするという「パッケージツアー」でした。  これはかなり安易な内容ということもあって、各大学の入試事務室はすぐ にブラックリストに入れましたし、同様の企画は金を払って大学の印象を悪 くするだけということで、すぐに廃れたのでした。  また、同じく90年代の末から、アイビーキャンプというものが流行しま した。例えば、コロンビアとかイエールなどのアイビー校は、夏休みの夏期 講習として高高10年生などに「物理学最新トレンドコース」とか「バイオ の先端を探るコース」といったプログラムを用意して、かなり高額の設定を していたのでした。  ですが、これには裏がありました。高額の授業料というのは、講師となる 名物教授へのボーナスに化けるだけで、そうした教授たちはそれなりに熱心 に教えることはするわけです。その一方で、教授たちには入試事務室から秘 密裏に2つの指示が出ていました。1つは「光る才能を持つ高校生がいたら 連絡するように」というものですが、もう1つは「才能のないことが顕著な 学生も連絡するように」というものでした。  前者の場合はいいのですが、問題は後者のほうで、高額(3千ドルとか5 千ドルとか)の授業料を払って子供を送り込んでいながら、実はその子ども が「才能がない方のブラックリスト」に乗る結果になるわけです。(続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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