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【Vol.450】冷泉彰彦のプリンストン通信『巨大ハリケーン被災の影響は?』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「安倍氏国葬、岸田・菅の弔辞を分析すると」  安倍晋三氏の国葬が無事に執り行われ、新旧の2人の宰相の弔辞が話題に なっています。ただ、菅さんのものが感動的とか、岸田さんのが詰まらない というような印象論には私は興味はありません。あくまでこの2人は政治家 であり、弔辞もまた政治的なステートメントとして受け止めました。その上 で、留意点をメモしてこうと思います。 (1)菅氏の弔辞の冒頭にあった「瀕死の安倍氏を見舞った運命の日」につ いてですが、この行動には凄みを感じます。自身の政治的復権をかけて東京 から奈良まで飛んだのですから、その迫力には敬服しますし、これをお涙頂 戴の感動ドラマに仕立てるというのは相当です。 (2)北朝鮮にコメを送ろうとした民主党の政府に反対したくだりですが、 菅氏は「草の根の国民に届くのならよいが、その保証がない限り、軍部を肥 やすようなことはすべきでない」と言って、「自民党総務会で、大反対の意 見をぶち」、それで安倍氏と意気投合したというのは面白いと思いました。 ここで言う「草の根」というのは、北朝鮮の庶民のことなんですね。菅氏の 一種のバランス感覚であり、この場でこういう事を言うのは結構面白いと思 いました。 (3)最大のハイライトは、安倍氏に2度目の総理総裁目指して出馬を促し た、具体的には「2人で、銀座の焼き鳥屋に行き、私は、一生懸命、あなた を口説きました。それが、使命だと思ったからです。」という部分です。ど うして安倍氏にはカリスマ性が戻っていると判断できたのか、とても興味が ありますし、そもそも清和会のボスではない安倍氏を総裁候補に押し出した 辺りの力学は、もう少し詳しく分析が必要です。 (4)TPPの話も面白いです。「TPP交渉に入るのを、私は、できれば 時間をかけたほうがいいという立場でした。総理は、「タイミングを失して はならない。やるなら早いほうがいい」という意見で、どちらが正しかった かは、もはや歴史が証明済みです。」ということで、自由貿易を認めていま す。現在の政治の文脈からは、菅氏が一定程度は河野太郎氏などと連携して、 構造改革に理解を示していることの証左かもしれません。持ち上げ過ぎかも しれませんが。 (5)晩年の安倍氏が、山県有朋伝を読んでいたというのは、非常に巧妙に 仕組まれた嫌味も薄っすら感じられますね。山県という人は、最後は昭和天 皇と香淳皇后との婚約に反対して、国民から総スカンを喰らい、国葬も閑古 鳥だったそうです。その辺の含みもピリっと利かせてあって、つまり安倍さ んをディスるのではなく、国葬を強行した政権に対して、薄っすらと嫌味に なるというわけです。その上で、山県の「今より後の世をいかにせむ」とい う短歌の下の句で結んでいる、そこには再登板の野心もあるし、難局への危 機感もあるということで、お見事でした。もっと言えば、山県の短歌は、伊 藤公を悼んでいる内容であり、つまりは安倍さんを伊藤公にたとえているわ けです。これも伊藤公が日露と日韓の間で引き裂かれた存在ということを踏 まえていると考えると、面白いと思いました。 (6)ということで、電通さんとか、スピーチライターがというのではなく、 菅さんが信頼できる周囲と相談して自分でゴーを出した弔辞だと思います。 (続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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