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vol.148:内巻と躺平とは何か。日本社会も無関係ではない成長した社会に起きる長期疾患

知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード
  • 2022/10/31
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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 148 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ みなさん、こんにちは!ITジャーナリストの牧野武文です。 今回は、内巻とタン(=身に尚)平の2つのネット流行語についてご紹介します。 この2つの言葉は、日本のメディアでも度々紹介され、内巻というのは内部競争のことで、中国の企業はどこも内部競争が激しく、みな疲れてしまっている。その競争に疲れた若者は、競争から降りてしまって、毎日寝そべっている=タン平をして無気力になっているというストーリーで語られます。 これを間違いというほどでもありませんが、意味のずれを感じます。もし、競争が激しいことを言うのであれば、中国は10年以上前から厳しい競争社会であり、改革開放が始まる前から厳しい権力闘争の国でした。その時代にも、競争に疲れてしまった人はたくさんいます。それがなぜ、ごく最近になって、ことさら内巻という言葉を使って、競争の厳しさを強調しなければならないのでしょうか。 わざわざ内巻という言葉を使うのは、競争の本質が大きく変化をしたからです。どう変化をしたかというのは一言で説明するのは難しいので、本文でご紹介しますが、簡単に言えば悪性の競争が始まりました。悪性の競争になってしまったため、それを避けるために何もしない=タン平という態度を取る人が増えているのです。 重要なのは、この内巻は中国特有の問題ではありません。経済成長するすべての社会に普遍的に起こる現象で、私たちの日本も無関係ではありません。 そこで、今回は、内巻とタン平という2つのネット流行語をご紹介し、企業がどのような対応ををしているのかをご紹介します。 知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード vol. 148 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼目次▼ 内巻とタン平とは何か。日本社会も無関係ではない成長した社会に起きる長期疾患 小米物語その67 アリババ物語その67 今週の「中華IT最新事情」 Q&Aコーナー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 内巻とタン平とは何か。 日本社会も無関係ではない成長した社会に起きる長期疾患 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 今回は、内巻とタン(=身に尚)平についてご紹介します。 この2つのネット流行語は、日本のメディアでもよく紹介されるようになってきました。内巻(ネイジュアン)は内部競争、タン平(タンピン)は寝そべりと訳され、中国社会はものすごく競争が厳しく、若者たちは達観をして競争から離脱をし、寝そべって過ごすようになっているというストーリーに乗せられ、中国の激しい競争社会が若者を無気力にしているというニュアンスで語られます。 この解釈が間違いであるとまでは言いませんが、中国でこの2つの言葉が社会学者まで巻き込んで大きな議論になっているのは、より深いレベルでの中国社会の問題だからです。中国の問題というより高度成長をした社会に必然的に訪れる課題でもあるからです。 もし、「競争が厳しいから降りちゃう人がたくさん出ている」という話であるなら、20年前から中国はそうでした。降りてしまう人のことは脱落者と呼ばれて顧みられることはありません。それがなぜ、2020年以降になって、この問題が大きな議論になっているのか。ここが大きなポイントであり、私たち日本社会もまったく同じ課題を抱えています。 この内巻という言葉が流行したきっかけははっきりとしています。中国の一流大学である清華大学の学生が「これが清華大学の内巻だ」として、1枚の写真をアップしました。 https://view.inews.qq.com/k/20201004A0B2GC00?web_channel=wap&openApp=false ▲自転車に乗りながらパソコンでレポートを書く学生の姿が、内巻という言葉が流行するきっかけになった。 その写真とは、夜遅い時間にたくさんの学生が自転車で寮に戻る中、ある学生が自転車に乗りながら、パソコンを開き、器用にレポートを書いているというものです。これが「清華大学の巻王」として一気にネットに拡散しました。 この写真を見て、「清華大学のようなトップ校では、ここまでしないと競争に負けてしまうのか」という感想を持つことも可能で、そうすると、日本のメディアで言われている「厳しい競争に負けて…」というストーリーとうまく合致します。 しかし、拡散した理由は少し違っていて、多くの人が「そこまでやるの?」というおもしろ画像として捉えたのです。日本風に言えば「コーヒー吹いた」に近い感覚です。この微妙なニュアンスの違いも、内巻が抱える問題を理解していただければ、わかっていただけると思います。

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