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津田大介の「メディアの現場」
2022.10.21(vol.506/part1)
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──Don't lose your temper──
みなさん、こんにちは。津田大介です。
ついにツイッターがイーロン・マスク氏(以下敬称略)に買われましたね。前号の
Q&Aでもちょっと触れましたが、イーロン・マスクの世界に及ぼす影響力がヤバいこ
とになってきているように思います。
まずは英国のフィナンシャルタイムズで報じられていた件。イーロン・マスクはウ
クライナ侵攻が始まった直後、ツイッターでウクライナ支援を表明し、衛星インター
ネットサービスのスターリンクの提供を決めました。それはウクライナがロシアに
善戦する大きな要因となり、いまもウクライナの生命線になっています。ところが
最近ウクライナからクリミア半島でスターリンクのサービスを提供してくれという
要請をマスクが拒否したそうなんです。ロシアによって衛星や中継器が破壊される
報復行為を恐れてのことのようです。
それだけじゃなく、9月下旬になると、東南部4州をプーチン政権が強制併合しまし
たが、その直後からウクライナ軍が奪還したウクライナ東部や南部の一部の地域で
スターリンク端末が機能停止に陥ったと報道されました。これがウクライナ軍の進
撃を止め、ウクライナ軍にとっては壊滅的な状況を招き、ロシアの助けになったと。
もちろん偶然の可能性や、ロシアによる電波妨害だった可能性もありますが、クリ
ミア半島で使えるようにしてほしいという要請を断ったことが事実であるならば、
それと整合するような動きですよね。もちろん彼も商売人だから、膨大なコストか
けて打ち上げたスターリンクの衛星が攻撃されるようなリスクは減らしたいのでしょ
う。しかし、それを理由にロシア寄りの立場を取るのだとすれば、まさに一企業の
経済的な理由で人命が危険にさらされる状況を招くとも言えます。もちろん、スター
リンクが提供されたから初期の段階でウクライナ全体がロシアに支配されるリスク
が減ったわけで、そこで救った人命もたくさんあります。とはいえ、一度ウクライ
ナ侵攻にコミットしてウクライナやウクライナを支援する欧米諸国にとってなくて
はならないインフラになったあとに、サービスを提供するかしないかということは
その影響力が決定的になる。政府でも国際機関でもない一企業のトップが安全保障
への重大な影響力を自由自在に駆使できるようにすることの問題──戦争のなか見
過ごされてきた懸念──が顕在化してきているということが言えるのではないでしょ
うか。
皆さんあらためて思い出しましょう。マスクは慈善運動家ではなく世界で最も優れ
た経営者の一人です。そして倫理的・道義的にはかなり危うい面をはらんだ人物で
す。そんな人物がツイッターを買収し、CEOとCFO、法務担当のトップを即座に首に
しました。永久凍結されたトランプ前大統領のアカウント復活させることも公言し
ています。
個人の気まぐれな判断が世界を動かしてしまう。
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