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【Vol.454】冷泉彰彦のプリンストン通信『2022年10月31日の世界』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「名刺に博士号が書けない社会、何が問題か?」  日経新聞の記事「「すご腕」雇えぬ政府 人材確保、企業と争奪戦」という 記事、 https://www.nikkei.com/article/ DGXZQODE027CM0S2A800C2000000/  の中に、「防衛装備庁は博士号を持つ職員に名刺へ記載するよう呼びかけ る。従来は『上司に疎まれる』と何も書かない人が大半だった。自分の能力を 誇りを持って生かしてもらう『名刺からの意識改革』だという。文部科学省も 近く同様の通知を出す。」という記述があって驚きました。  ネットで検索すると、民間でも「転職に際して高度な学位は悪印象になるの で、成果アピールは取得特許など具体的なものが良い」などという言い方がか なり一般的のようです。  この「上司に疎まれる」とか「採用面接で不利」というのが、どうして間違 っているのか、今回は3点考えてみたいと思います。  1点目は、昭和から平成の時代の発想法で、ある分野の博士号というのは、 「狭い専門性を極めている」ことの証明であって、それは「逆に潰しの効かな い人材だ」という考え方があるということです。  これこそ、ジョブ型人事という新しい流れに逆行する発想です。ジョブ型と いうのは、その人材の専門性を評価して国際的な労働市場における価値を認め るところから始まるからです。  2つ目は、博士号というのは取得に時間がかかっていて、実務経験の時間が 少ないという偏見です。これもジョブ型とは何かを分かっていないという一言 で切って捨てていいと思います。  問題は3つ目です。自分は自分より偉い部下を管理できないし、したくない という管理職や経営者の心情です。この問題には、いろいろなバリエーション があり、学校現場では、「自分より能力の高い生徒を嫌う」教員は山のように います。それこそ、現代の鋼鉄の優しさを持った若い世代には、そんな「面接 官や上司とは違って、自分には博士号があるなどという失礼なアピールは出来 ません」ということになるのだと思います。  つまり、人間にはプライドがあり、どうしてもそれはコントロールできない ものであり、だったら、学位の逆転現象を暴露して、人のプライドを砕くとい うのは、自分に対する敵意として跳ね返ってくる危険な行為になる・・・そん な理解です。  この問題に関しては、被害者世代を批判することはとても出来ません。そう ではなくて、まず大前提から変えることが必要だと思います。  教員というのは、幼い生徒に対してより優れている自分が知っていることを 「教えてやる」職業ではないのです。そうではなくて、「自分より優秀な世代 に自分の持っているノウハウをリレーして、自分たちが解決できなかった問題 を解決してもらう」というのが教員の責務だというように要件定義を変えなく てはなりません。  また管理者というのは、経験と知識が優れた人間がなり、その経験と知識を 部下に教えて自分の継承者に育てるとか、計画を立てて、その計画に基づいて 命令して計画を実現する役割ではありません。  そうではなく、管理職というのは「変化の激しい時代に、より最先端の技術 と知識を持った部下に対して、そのモチベーションを引き出し、必要なリソー スを引っ張ってきてやり、また上位マネジメントとのコーディネーションをす る中で、チームの成果を最大化する専門職」という再定義をすべきです。 (続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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