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「入れ替わり可能性」の視点がジェンダーや統一教会の議論には欠如している 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.729

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2022.11.7 Vol.729 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 「入れ替わり可能性」の視点がジェンダーや統一教会の議論には欠如している 〜〜〜ダブスタを廃して、建設的な議論とよき人生を構築するために 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 「入れ替わり可能性」の視点がジェンダーや統一教会の議論には欠如している 〜〜〜ダブスタを廃して、建設的な議論とよき人生を構築するために ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 政治や社会について議論するときに、わたしがいつも頭に留めているのは「そのロジックは、仮に立場を入れ替えてみても成立するのか?」ということです。 現代のSNSやメディアでは、「マイノリティは、どれだけマジョリティを糾弾してもかまわない」「弱者は正義であり、強者は悪である」というような極端な議論がはびこっています。しかしマイノリティや弱者は決して固定的な立場ではありません。 ひとつ例を挙げれば、男性。まだ「家父長」的な空気が色濃く遺っていた昭和の時代には、男性は圧倒的な強者でした。もちろんいまでも中小企業や地方の伝統的な共同体には、偉そうな中高年男性が根強く生き残っていたりしますが、すべての男性がそういう立場を享受できているわけではありません。 たとえば就職氷河期を経ていまも非正規雇用に甘んじている1970年代生まれの男性は、非常な弱者です。「キモくて金のないオッサン」というネットスラングがありましたが、非正規で貧しい中高年男性には誰も手を差し伸べてくれません。現代の貧困というとシングルマザーや生活保護家庭ばかりが新聞やテレビでは取りあげられますが、そういう男性たちはメディアでは一顧だにされません。 そういう氷河期世代の男性の実態を前にして、「わたしは差別されてきた女性だから、こういう男たちには何を言ってもいいんだ」と突き放すことは認められるのでしょうか。 差別をなくし、ジェンダーの平等を実現することは大切ですが、男女の立場が入れ替わっても成立できるロジックが求められているのだと思います。そのような「入れ替わり可能性」を看過してしまうと、容易にダブルスタンダードに陥ってしまうことを忘れてはなりません。 統一教会の問題についても考えてみましょう。「霊感商法をやってる悪質な団体だから、統一教会そのものを排除せよ」という議論をひんぱんに見かけます。統一教会の霊感商法がきわめて悪質な行為であることはその通りだと思いますが、そういう排除の論理はあまりにも乱暴だとわたしは考えます。 そもそも、何を排除するのかというその「対象」が明確に議論されていません。対象とされているのは霊感商法という行いなのか、統一教会という団体なのか、それともひとりひとりの信者までをも含むのか。どれを対象にするのかで、議論はまったく異なってきます。 たとえば新聞やテレビでは「政治家の選挙活動の運動員やボランティアに統一教会信者が加わっていた」というようなことまで報じられていました。これは信者の存在自体を否定していることになり、そもそも運動員の信仰を問うことは、憲法で定められた「信教の自由」に抵触しかねません。迂闊な報道といっていいでしょう。 では統一教会という「団体そのもの」を排除の対象にするのか。この場合には、排除される団体がどのような規準で選ばれるのかという「規準」「定義」が重要になってきます。 「反社会的なカルトだから排除して当然」と主張する人もいるでしょう。しかしこれは、きわめて短絡的な主張です。「反社」「カルト」の定義が明白ではないからです。反社会的勢力については、2007年に政府によって定義されています。「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」です。 宗教団体が反社に当てはまるのかどうかは、慎重に議論する必要があります。そもそも目的が「経済的利益を追求する」ことだけにあるのか、それとも宗教の教義の体現にあるのかを、区分しなければならないからです。暴力団は明白に「反社」ですが、教義を追求し信仰の拡大を目的とする宗教団体はそれとは異なります。 では「カルト」はどうか。このカルトという呼称の問題点については、ウィキペディアの「カルト」項目が網羅的に見事に言い表しています。 ★カルト - Wikipedia

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