「小松成美の伝え方の教科書 ノンフィクション作家に学ぶコミュニケーション術」
vol.37「宇宙飛行士・若田氏の約4万時間の訓練と宇宙で得たものとは?」
【今週の目次】
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1. 成美のつぶやき
└ 45日で辞任した首相
└ イギリスの大転換点!?
└格闘技のように議論するイギリス
2. 宇宙飛行士・若田氏のチャンスを掴むチカラ ~およそ4万時間の訓練と宇宙で得たものとは?〜
└ 果てしない宇宙への道を目指した少年
└ 宇宙飛行士で活かされたボーイスカウトの経験
└宇宙飛行士を目指した運命の日
└宇宙のために、東京大学に進学
└チャンスの背中を押してくれた妻の存在
└掴んだ夢と共に訪れた試練、その先に
└NASAでたたき込まれる、ある「教え」とは?
└仲間を失ったある事故
└宇宙という場所からしか見えないもの
└総訓練時間38,099時間で得たものとは?
3. 小松成美の質問コーナー
4. お知らせ
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1. 成美のつぶやき
45日で辞任した首相
2022年10月20日、イギリス史上3人目の女性首相だったリズ・トラス氏がわずか45日で辞任を表明しました。公約していた経済政策を果たせないと認識したからです。
異例の短命政権にもイギリスの困窮ぶりがうかがえて驚きましたが、その後さらに大きなニュースが届きます。
10月25日、初のインド系で42歳という若さのリシ・スナク氏がイギリス首相に就任したのです。財務大臣になってからあっという間に若い首相となったリシ・スナク氏の経歴、1960年代に東アフリカからイギリスに移住したインド系の両親を持つという事実は、世界に大きなインパクトを与えました。
非白人で、過去200年で最年少(42歳)の青年がイギリスのリーダーになったのです。1997年に誕生した最年少首相トニー・ブレア氏の44歳を2歳、更新しました。
イギリスは現在与党の保守党と野党の労働党との二大政党です。
リシ・スナーク氏は1980年生まれ。日本では松坂世代と言われ、新時代を築く人たちが誕生し希望の世代とされていました。
才能のある人を選んでいく、ダイナミックなイギリスの政治。若い才能、優秀な人に政治を託す国民性、寛容さと多様性を示した新首相の存在は、年功序列、経験値、肩書き、前職の経歴などを重視する日本の対極にあるのではないでしょうか。
資料によれば、スナク首相は、イギリス南部で生まれ、名門男子校のウィンチェスター・カレッジからオックスフォード大学、アメリカ、スタンフォード大学へと進み、MBA(経営学修士)を取得。金融大手「ゴールドマンサックス」やヘッジファンドで働いた後、2015年、35歳の時に政治の世界に入りました。そのわずか4年後にジョンソン政権で財務相に登用され、政界にデビューしてからたったの7年で首相就任となる異例のスピード出世を果たしたのです。
ケタ外れの大富豪で、チャールズ国王よりお金持ちということも衝撃的なニュースとして報道されましたね。
スナク首相の奥さんアクシャタ・ナラヤナ・ムルティさんも時の人です。彼女も実業家であり、ファッションデザイナーとして事業を展開。彼女の父親は、「インドのビル・ゲイツ」と呼ばれる人で、大手IT企業の創業者だそうです。取材や旅行で何度もイギリスに訪れている私ですが、伝統を守る保守的な国民性は、政治はもちろん、食事や文化芸術、スポーツなどにも色濃く反映されているように思います。
(朝ご飯はどんな時にもベイクドビーンズですし、演劇の中心には今もシェイクスピアがあり、クリケットやポロにも国民的ヒーローがいます)
同時に、その野心と独自性にもプライドと信念が見えます。17世紀から20世紀まで世界を席巻した大英帝国のスピリッツはその遺伝子に刻まれているのではないでしょうか。
2022年、イギリスはボリス・ジョンソン氏を含め短期間に3回も首相が変わりました。ロシアのウクライナ侵攻があり、金融危機やエネルギー危機に見舞われ、インフレが進み、経済が待ったなしの状況の中で、財務大臣を勤めた経歴を持ち、最も財政通、財務のプロフェッショナルである、スナク氏が選ばれたのです。
イギリス議会は財政危機を突破するために、遂に有色人種、移民の子孫である彼を首相にしました。こういった時代の変遷は、平穏で何もない時代にはきっと生まれなかったでしょう。
世界的な金融危機、エネルギー危機に際し、彼に大きな使命が託されたのです。運命的とも言えるスナク氏の登場、歴史的舞台や背景に感慨を持ちました。
イギリスの大転換点!?
イギリスの移民のマジョリティがインド人であることは、この国のインド植民地支配の時代から連なっています。イギリスを祖国とするインドの方々は大勢いて、インドの文化はもはやイギリスの一部なのです。
そんな歴史を踏まえると、インド系の首相の誕生がイギリスという国家のターニングポイントになるかもしれませんね。
私はかつてイギリスの国会を見学したことがあります。トニー・ブレアが首相だった2000年代のことです。ロンドンのテムズ川河畔にそびえる、ウエストミンスター宮殿に国会議事堂があります。ビッグ・ベンの愛称でも知られ、96.3mの時計塔を有し、国内有数の観光名所でもありますね。
現在の建物はかつての王宮が1834年に火災で焼失した後、1857年に再建されたもので、全長286m、1100を超える部屋、100の階段、11の中庭という壮大なスケールを誇ります。
国会の会期中、ロンドンに滞在していた私は、見学を思い立ちウエストミンスター宮殿に国会議事堂へ向かいました。入り口で荷物検査をしてパスポートを見せると、入場が許可されました。(現在もチケットを購入して、空港と同じようにセキュリティチェックを受ければ見学できるそうです)
テレビでご覧になった方も多いと思いますが、イギリスの国会は与党と野党がぎゅうぎゅう詰めに座ります。そして、中央にある演台に立ってディベート(論破、議論)を続けるのです。
議員が座る席は、ひな壇になっていて、隣どうし肩と肩がふれあうくらいの距離感です。党や自分の理念や政策をぶつけ合うという議論が白熱すると、そこに同じ党の議員から、賛成、声援を意味する「イェーイ」「ウォー」という合いの手が大合唱になって起こるのです。
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