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第190号 老朽原発の再延長という自爆テロ/五郎さんと世界三大スープ/冬浅し/ススキとモズとヒヨドリジョウゴ

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  • 2022/11/09
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「老朽原発の再延長という自爆テロ」 福島第1原発事故からずっと垂れ流し続けられている高濃度の放射能汚染水について、当時の安倍晋三首相は2013年9月、「今後は東電に丸投げせず、国が前面に立ち、私が責任者となって正面から取り組み、完全に解決いたします」と全国に宣言しました。しかし安倍首相は、その後も東電に丸投げしたまま何もせず、7年経っても放射能汚染水を止めることができず、結局、次の菅義偉首相が国会で審議もせずに「海洋放出」を閣議決定しました。 そして、この事実を踏まえた上で続けますが、岸田文雄首相は今年8月24日、脱炭素の実現を議論する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」で、次のように述べました。 「エネルギー政策の遅滞の解消は急務です。今後は原発再稼働に向けて、国が前面に立ち、あらゆる対応をとっていきます」 また、秋の臨時国会の冒頭、10月3日の所信表明演説では、次のように述べました。 「GXの前提となるエネルギー安定供給の確保については、ロシアの暴挙が引き起こしたエネルギー危機を踏まえ、原子力発電の問題に正面から取り組みます。そのために、十数基の原発の再稼働、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設などについて、年末に向け、専門家による議論の加速を指示しました」 岸田首相も安倍元首相と同じ経産省のスピーチライターを使っているため、「国が前面に立ち」とか「正面から取り組み」とかのフレーズは同じですが、放射能汚染水を止める気など1ミリもなかった安倍元首相とは違い、岸田首相は本気で原発推進を、とりわけ目先の原発再稼働を進めようとしています。その証拠に岸田首相は、8月24日の「GX実行会議」の直後、「原則40年だが、最長20年延長できる」と定められている現在の原発の運転期間を、さらに延長できるように規定を変更するよう、経産省に指示したからです。 もともと日本の原発を規制する機関だった「原子力安全・保安院」は、原発を推進する「資源エネルギー庁」と同じ経産省の中にあり、同じ官僚が定期的な人事異動で、規制する側と規制される側を行ったり来たりしていました。この「なあなあ」のシステムが原発の安全性のチェックを形骸化し、福島第1原発事故の原因の1つとなり、「保安院、全員アホ」という回文の名作を生む背景となりました。 そこで、福島第1原発事故を受けて、当時の民主党政権は、経産省の「原子力安全・保安院」を廃止し、環境省の外局として「原子力規制庁」を新設し、独立性の高い3条委員会として「原子力規制委員会」を発足させたのです。独立性と公平性を重視した原子力規制委員会は、2012年12月の総選挙で自民党が政権に返り咲き、第2次安倍政権がスタートしても、安倍首相が進めようとする原発再稼働には極めて厳しく対応していました。 当初は、原子力規制委員会が定めた新しい安全基準に1点でも適合しない原発は、再稼働の申請がことごとく却下されました。しかし、2014年5月、安倍政権が「内閣人事局」を設立し、各省庁の官僚の人事権を握るようになると、原子力規制委員会の独立性や公平性にも疑問符が付くようになり始めたのです。原子力規制委員会のメンバーは官僚ではありませんが、官僚に支配された省庁の下部組織だからです。 安全基準を満たしていない原発でも、「いついつまでに基準を満たすようにする」という覚書だけで再稼働を容認する。現場の理解が得られていないのに放射能汚染水を「処理水」と言い換えて「海洋放出」を許可する。「内閣人事局」が発足した2014年5月以降、原子力規制委員会の判断は、明らかに首相官邸に常駐する経産省の高級官僚からの圧力が影響し始めましたように見えます。 そして今回、岸田首相から「原発の運転期間の延長」を指示された経産省は、まずは現在の「最長60年」と定めているルールを撤廃して、原発の運転期間を「青天井」にするというトンデモ案を検討しました。しかし、そもそも現在の「最長60年」というルールは、福島第1原発事故を受けて定められたものなのです。その福島第1原発が、事故から12年が経とうとしている今も収束の目途が立たない状況で、ここでの「青天井」など国民の理解が得られるわけがありません。 そこで経産省は、とんでもない悪知恵を働かせたのです。現在の「原則40年だが、最長20年延長できる」というルールは維持した上で、「原子力規制委員会の審査や司法判断などで原発が停止していた期間は累計年数から除外する」という補足条項を新設するように調整しているのです。たとえば、これまでに合計で10年間ほど停止していた原発なら、基本の40年と延長分の20年にプラスして、さらに10年も稼働できるという方式です。 原発は、別に稼働していなくても、高濃度の放射能によって各部が劣化し続けているため、これはあまりにも非科学的な屁理屈です。しかし、この経産省の悪知恵を原子力規制委員会はシレッと容認してしまいそうなのです。福島第1原発事故後、原子力規制委員会は「原則40年と定めた運転期間の上限は科学的根拠のない政治判断であり、規制委は意見を述べる立場にない」との見解を示したからです。 科学的根拠に基づく判断であれば原子力規制委員会としての意見を述べるが、科学を無視して政治が強引に決めたことについてはコメントできない、というわけです。そう言えば、新型コロナの専門家会議の尾身茂氏も、感染拡大中に安倍元首相が「Go To トラベル」を進めたり、行動制限を緩和した時に、「これは政治判断なので専門家会議としては意見を述べる立場にない」と繰り返していましたよね。ですから、同じく科学的根拠のない今回の原発延長案についても、原子力規制委員会は同じスタンスを取るものと思われ、結果的に原発推進派の言いなりに進んで行くと見られています。 もともとの40年にも科学的根拠がないのに、それを20年も延長しただけでなく、さらに稼働していなかった期間まで上乗せするなんて、もはや自爆テロのレベルです。政府は北朝鮮がミサイルを発射するたびに「地下に逃げろ!」「頑丈な建物に隠れろ!」と大騒ぎしますが、本当に北朝鮮が日本の国土を狙ってミサイルを発射し、それが日本各地に林立する原発のどれかに着弾したら、その瞬間に通常ミサイルは核弾頭ミサイルに変わるのです。

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