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「140字の戦争」に敗け「かわいそうランキング」で地に墜ちるプーチン  佐々木俊尚の未来地図レポート vol.730

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2022.11.14 Vol.730 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 「140字の戦争」に敗け「かわいそうランキング」で地に墜ちるプーチン 〜〜〜弱者と強者の入れ替え可能性についてあらためて考える 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 「140字の戦争」に敗け「かわいそうランキング」で地に墜ちるプーチン 〜〜〜弱者と強者の入れ替え可能性についてあらためて考える ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「かわいそうランキング」とか「弱者競争」といったネットのスラングが当たり前のように使われるようになったのは、この10年ぐらいのことです。昭和の時代には一般的だった「家父長制における強い中年男性」という男性像は過去のものとなり、男性の多くはブラック労働に苦しめられていたり、リストラに脅えていたり、非正規雇用で社会から見棄てられていたりと、弱者に転落しています。 そういう現代社会でも、昭和から現れた過去の亡霊のような「強い男性」は残存しています。森喜朗元首相とか、しばらく前に脱税で逮捕された日大の田中英壽理事長とか、日本ボクシング連盟を私物化して不祥事を大量に起こしていた山根明会長とか、そういう人たちです。外見も、昔の時代劇に出てくる悪徳代官みたいな人たちばかりで非常にわかりやすい。 そういう人たちは自分が傘下に収めているJOCや日大、ボクシング連盟といった狭い社会のなかでは圧倒的な強者ですが、SNSがリードする21世紀の世論空間においては圧倒的な非難の対象になる。 3年ほどまえに翻訳が出た『140文字の戦争』というおもしろい本があります。 ◆『140字の戦争 SNSが戦場を変えた』 Kindle版 https://amzn.to/2xk0sQR タイトルからわかるとおり、ツイッターなどのSNSと戦争の関係を論じた本です。軍事力で強いか弱いかだけでなく、現代の戦争においてはいかに多くの人を「共感」させるかということが大事な戦略になっているということが書かれています。 この本では2014年のイスラエル軍によるガザ侵攻が題材にされています。イスラエル軍はガザ地区を空爆、侵攻して圧倒的な軍事力を見せつけました。しかしツイッターではガザの人たちの「イスラエルの空爆で子供が死んでいる」という発信が多くの支持を得て、これに侵攻した側は対抗できず、イスラエルは「国際社会の目に悪魔のように映ってしまった」と著者は指摘しています。軍事的衝突そのものだけでなく、SNSの世界でどちらの物語が「戦場外」で多くの支持を得るかという戦いが重要になってきているということなのです。 ロシアとウクライナの戦争でも、まったく同じことが起きています。2014年のクリミア併合では、「140字の戦争」に勝ったのはロシアでした。ロシアは表立っては軍隊を送り込まず、記章を外した謎の部隊が暗躍し、宣戦布告せず、軍隊の存在も認めず、つまりは戦争状態にあるとはロシアはいっさい認めませんでした。 そのように「平和ではないが、正式な戦争にはなっていない」というグレーゾーンの戦いを慎重に実践し、クリミアの住民に「ウクライナ政府があなたたちを迫害しており、唯一の救いの綱はロシア政府とその代理人だ」という物語を信じさせることに成功したのです。 しかし昨年からのウクライナ侵攻では、まったく逆の勝敗となりました。ロシアはさかんに「ウクライナはナチ」「NATOが悪い」といったプロパガンダを流しましたが、国際社会の世論はまったく反応しませんでした。逆にウクライナ側のさまざまなアピールは大きく効を奏し、軍事も含めた西側諸国の援助を勝ち取ることができたのです。 ロシアはクリミアという親ロ派が多い狭い世界での「140字の戦争」には勝てたものの、国際社会という大きな世界での「140字の戦争」には太刀打ちできなかったということでしょう。 これは誤解を招かないようにしたいところですが、逆にウクライナはSNSにおける「かわいそうランキング」で勝利を果たしている、とも言えます。もう一本の補助線を引きましょう。 ★「国家の戦争」から「個人の戦争」へ プーチン氏は変化を見落とした:朝日新聞デジタル https://digital.asahi.com/articles/ASQBK75TYQBJUHBI042.html

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