ロシア軍が侵攻しているウクライナで「義勇兵」として戦っていた日本人の1人が死亡したとの報が11月に入って流れ、義勇兵での戦闘参加について「日本の法に触れる」との指摘がされています。様々な法律家らがこれについて論じていますが、過去に実際に適用された事例がないだけに想像の域を超えていないようです。ウクライナの外国人義勇兵は正規軍の指揮下にあり、日本の法律に触れるとはとても思えませんが、せっかくなので考えてみようと思います。
「義勇兵」について明確な定義はありません。義勇兵とは志願兵のことであり、自ら志願して参加していればそれは義勇兵で、本人の意志の問題なので定義しようがありません。
「日本の法に触れる」の法的根拠として言われているのが、刑法93条の「私戦予備及び陰謀罪」ですが、「罪に問われる可能性」と言う人々がいるだけで、具体的にどうなのかは判然としません。
刑法93条とは「外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する」というものです。
刑法は既遂犯を原則としていますが、重大な犯罪に限って実行前の準備行為が処罰されます。現行法では内乱、外患、私戦のほか、建造物放火、通貨偽造、殺人、誘拐、強盗については予備で処罰されます。
「私戦予備及び陰謀罪」は「私戦」を予備したり陰謀したりした者を罰するものですが、「私戦」をしたことそのものを罰する「私戦罪」はありません。すでにウクライナで戦っている人の場合、予備でも陰謀でもない段階なので私戦予備及び陰謀罪にはあたらないと思われます。
「私戦罪」そのものについては、明治13年の太政官布告ではあったようです。
太政官布告第36号(124頁)、第2章(国事に関する罪)、第2節(外患に関する罪)の第133条「外国ニ対シ私ニ戦端ヲ開キタル者ハ有期流刑ニ処ス。其ノ予備ニ止ル者ハ一等又ハ二等ヲ減ス」です。
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787960/80
しかし明治34年に帝国議会に提出された刑法改正案では「私戦罪」はなく、予備陰謀だけになっています。
貴族院議事速記録第6号(明治34年2月8日)49頁
第110条「外国ニ対シ私ニ戦闘ヲ為ス目的ヲ以テ其予備又ハ陰謀ヲ為シタル者ハ五年以下ノ禁錮ニ処ス但自首シタル者ハ其刑ヲ免除ス」となっていて、口語になっただけで現行のものと同じです。
https://teikokugikai-i.ndl.go.jp/#/detailPDF?minId=001503242X00619010208&page=2&spkNum=6¤t=-1
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