■ザ・メタバース
2021年は「メタバース」一色だった。利益が増える、顧客が喜
ぶ、ライバルに勝てるなど、魔法の言葉かなにかのように、誰もが
「メタバース」と言っていた。
この流れは、米証券取引委員会への報告書にも現れている。昨年
10月のロブロックスIPOまで、「メタバース」という単語は5回
しか登場しなかったが、2021年は260回以上と急増した。
ブルームバーグは、財務関連のデータや情報を投資家向けに発信し
ているが、同社の記事にメタバースという単語が登場する回数も、
昨年までの10年で7回だったが2021年には1000回を超えた。
西側の国や企業以外もメタバースに注目している。中国政府、イン
ターネットゲームの巨人で中国最大の企業テンセント、韓国のゲー
ム大手などだ。
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「メタバース」という、まだ海のものとも山のものともつかないよ
うなアイデアを世界的な大企業が中核に据えると発表するなど、
前代未聞といえることだ。
ここまでもてはやされているのは、今後メタバースがコンピューテ
ィングとネットワークのプラットフォームになっていくと誰もが信
じているからだ。
1990年代はパーソナルコンピューターと有線インターネットの時
代だった。そこから、現代のモバイル・クラウドコンピューティン
グの時代へと移行した。
このシフトで、ほぼすべての業界が根本的に変化を余儀なくされ
た。社会や政治も大きく変わった。ただ、前回と今回とではタイミ
ングが大きく異なる。
モバイルやクラウドの重要性については理解者が少なかった。むし
ろそういう人に対抗したり、変化に反応したりする人が多かった。
ところがメタバースには、早い段階から建設的に動いている。
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メタバースとは、リアルタイムにレンダリングされた3D仮想世界
をいくつもつなぎ、相互に連携できるようにした大規模ネットワー
クのことだ。人はそこで永続的に同期体験ができるようになる。
ユーザー数は実質的に無制限だ。しかも、ユーザーは一人ひとり
が、個としてそこに存在しているかのような感覚になる。つまり、
「センス・オブ・プレゼンス」が持てるようになるのだ。
また、アイデンティティ、歴史、各種権利、オブジェクト、コミュ
ニケーション、決済などのデータに連続性がある。これこそが、メ
タバースの包括的かつ有用な定義だ。
メタバースを「モバイルインターネットの後継」と考えたり、そう
いうものだと言う人が多いが、その到来はまだまだ先のことだ。し
かも、その影響はよくわかっていない。
にもかかわらず、本格的に取り組む企業が相次いでいる。目ざとい
経営者ならプラットフォームが登場するたびに、世界も、企業も大
きく変わってきたことをよく知っているからだ。
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メタバースについて構築や吸収などの争いが進むのはこれからだ。
その中から勝者が出るのかもしれないが、仮想世界のプラットフォ
ームや技術を部分的に統合する形で進んでいくはずだ。
このプロセスには時間がかかる。不完全で、すべてを網羅すること
はできないし、技術的にも大きな制約が生まれるはずだ。それで
も、これこそ我々が望むべき未来だ。実現に向けて努力すべきだ。
メタバースが実現しても、インターネットを支えるアーキテクチャ
ーやプロトコルのスイートに取って代わるとか、そういうものを根
本的に変えてしまうことはないはずだ。
おそらく、インターネット上で進化・発展し、まったく新しいもの
が生まれたと感じるようになるだけだ。メタバースとはそういうも
のなのだ。
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