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週刊life-is-beautiful-2022年12月06日号:Web3の問題点とその未来

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Web3の問題点とその未来 先週、とあるメディアからWeb3に関するインタビューを受けました(企業向けのメディアなので、一般公開はされないそうです)。 質問役の人がしっかりと予習をした上で、質問を投げかけてくれたので、とても充実したインタビューになりましたが、 その中で出た「現状のWeb3ビジネスの問題点」の話がとても重要だと思うので、ここに書いておきます。 現時点で、Web3ビジネスの多くがポンジスキームです。遊んで稼ぐことが出来る「Play2Earnゲーム」がその典型的な例です。消費者がNFTを購入してゲームを遊び、そこで「賞金」を稼ぐことが出来るゲームは、入ってくるお金(NFTの購入金額)と出ていくお金(ユーザーが稼げるお金)の関係を考えれば、一部の人が儲かる可能性はあるものの、全体で見れば必ず損する、つまり「期待値」がマイナスであることは自明です。 にも関わらず、数多くの人が「Play2Earnゲーム」に熱狂してしまうのは、そこに「トークンエコノミー」という「魔法の錬金術」が存在するからです。 トークンエコノミーとは、Play2Earnゲームなどのサービス提供者が発行する「独自通貨」により生まれる新たな経済圏のことで、上手に運営すれば、少なくとも一時的には、莫大な利益を運営元と先行者(サービスを最初のころから使っていた人たち)に与えます。 「Play2Earnゲーム」の場合だと、ゲームを遊ぶことにより得られる賞金をゲーム内通貨で支払い、かつ、ゲーム内でその通貨を消費する仕組みを作ることにより、独自の経済圏が作られます。この独自通貨によって作られた経済圏こそが、トークンエコノミーです。 トークンエコノミーの運営側にとっての利点は以下のようなものです。 NFTの売上を賞金としてユーザーに還元する必要がない 「ユーザー数が増えると、ゲーム内通貨の価値が上がって先行者が儲かる」というインセンティブにより、先行者たちがインフルエンサーとして自ら宣伝してくれる。 実際に儲けている先行者たちを見て、「自分たちも楽して儲けたい」というユーザーが集まって来る。 株の代わりにゲーム内通貨をVCに渡すことにより、株の希薄化を最小限に抑えられる。 2021年から2022年にかけての「ブーム期」に活躍したWeb3ベンチャーの大半が、このトークンエコノミーを活用して、ユーザーを増やし、VCから潤沢な資金を調達することに成功したのです。まさに、Web3ベンチャーにとっての「魔法の錬金術」なのです。 しかし、トークンエコノミーの存在ゆえに分かりにくくなってはいるものの、ビジネスの本質は「ユーザーが増え続けている間だけ先行者が儲けることが出来る。みんなが儲かると信じて集まり続けている限りは通貨の価値が上がり続ける」空虚なビジネスであり、いつかは必ず破綻するポンジ・スキームなのです。 問題は、この「トークンエコノミーを活用したユーザーの獲得と資金調達」こそが、現時点でWeb3でビジネスを立ち上げようとする起業家にとって、もっとも手堅い成長への鍵であり、そこに起業家と投資家の両方の意識が集中している点にあります。現時点での、Web3のキラーアプリケーションと言っても良いぐらいです。 別の言い方をすれば、Web3は、ベンチャー企業をアコギな金儲けに走らせる分、「金儲けと相性が悪い」とも言えるのです。起業家にとっては、手っ取り早くユーザーが確保出来て資金調達が出来るビジネスモデルが魅力的なのは当然だし、そこに投資家のお金が集まるのも当然なのです。 これこそが、今のWeb3業界がトークンエコノミーを活用したポンジ・スキームだらけな理由であり、私が「Web3業界はまだまだ黎明期だ」と私が指摘する理由なのです。 こんなことを指摘すると、「Web3に未来はない」「ブロックチェーンは実は役に立たない技術なのではないか」という印象を受けてしまう人も多いと思いますが、私はそんなことはないと思います。 「一度書き込んだ情報は、誰にも書き換えることも隠蔽することも出来ない」というブロックチェーンの性質は、税金などの公的資金の使い道をオープンにして汚職や賄賂を排除するには最適の技術だし、映像作品のように数多くの人たちが集まって作る作品の売り上げを透明性を持って手間をかけずに配布することも可能にします。 また、不動産取引のように、従来型のシステムでは「信頼できる第三者」が必須な取引を、「信頼できる第三者」が不要な trustless な取引に進化させることすら可能なのです。 その意味では、今起こりつつある「クリプトの冬」は、Web3業界が「子供」から「大人」に成長する過程で避けては通れない時期なのだと私は解釈しています。 TerraやFTXの破綻を見ても分かる通り、いいかげんなもの、いかがわしいものは長続きはしません。最終的に勝ち残るのは、ブロックチェーンを活用して価値を世の中に提供するサービスだけであり、そんなサービスの構築にエンジニアとして関わりたいと私は考えています。 ひょっとすると、そんなサービスを運営する主体は、従来型の(VCから運営資金を集めて、上場や売却により投資家と創業者に利益をもたらすという)営利ベンチャーとは大きく異なる形のものになるのかもしれないとすら考えています。それどころか、サービスの主体すら存在せず、ブロックチェーン上にデプロイされたソフトウェアが、自律的に動いて世の中に価値を提供し続けている、という世界が来ても不思議はないと考えています。 それこそが、Web3の提唱者たちが熱く語っていた、decentralized で trustless なWeb3の究極の形であるならば、そんなソフトウェアをブロックチェーン上に刻み込むことこそが、ソフトウェア・エンジニアとしての冥利に尽きると考えている私です。 22世紀の民主主義 先日、私の新しい書籍を担当している出版社の方から、彼女が担当した成田悠輔氏の著書「22世紀の民主主義」をいただき、早速読んでみました。

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