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佐々木俊尚の未来地図レポート 2022.12.26 Vol.736
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【今週のコンテンツ】
特集
「自分のプライド」よりも「他者への限りないリスペクト」が必要な理由
〜〜〜荒ぶるツイッター世界で闇落ちしないための対策を考える
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
「自分のプライド」よりも「他者への限りないリスペクト」が必要な理由
〜〜〜荒ぶるツイッター世界で闇落ちしないための対策を考える
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10年以上もツイッターを使っていて、いろんな人を目にしてきました。素晴らしい知見を持つ人、笑えるツイートをたくさん投稿している人、おだやかな日常を発信しつづけている人。いっぽうで毎日のようになにかを罵り続けている人、つねに誰かにからまないと気が済まない人など、人間の暗黒面をのぞき見るような人もたくさんいます。
いろんな人がわたしのツイートにリプライをしてくれます。最初は穏当なリプライをくれていた人が、だんだんと過激化していき、揶揄や中傷を繰り返すようになり、気がつけばどっかに行ってしまった……というような光景もたくさん目にしました。闇という名前の川の流れに落ち込んで、そのまま暗い世界へと運ばれて行ってしまったのでしょう。
「怒りは快楽である」と2000年以上も前にアリストテレスは喝破していました。太古の昔から、怒りや義憤は最高のエンターテインメントだったのです。しかしこのエンタメが近年おどろくほどに増えているように感じるのは、SNSの普及と無縁ではないでしょう。
たとえば社会問題への向き合い方がそうです。
かつて「怒りをうたえ」という時代がありました。1960年代末の学生運動のころです。「怒りをうたえ」は70年安保・沖縄闘争を記録したドキュメンタリー映画のタイトルだったのですが、この作品を見るとまさに「怒り」が運動全体に渦巻いているように思えます。
しかし当時の運動は70年代に入って中心層の学生たちが卒業すると徐々に衰退し、72年の連合赤軍事件で一気に熱気は冷めてしまって終焉を迎えました。以降は社会運動自体がゆるやかになっていき、わたしが新聞記者をしていた80年代から90年代にかけては、環境保護運動にしても住民運動にしても、過激なスタイルはとらずにゆるやかなネットワークで人々を結び、社会の仕組みを変えていこう、というような方向へと進んでいたのです。
ところが2010年代になって、突如として社会運動が過激になり、「怒り」が再び渦巻くようになりました。これはいったい何なのかが、1990年代の社会運動を取材していたわたしには非常に謎だったのですが、最近になって読んだ『チャッター』という翻訳書を読んで疑問が氷解した気がしました。
★『Chatter 「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法』
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この本によると、トラブルなどで心が揺れ動いている時には人は「認知的な欲求」よりも「感情的な欲求」を満たすことを優先してしまうといいます。前者は問題を解決するための知識を求める欲求。後者の「感情的な欲求」は、誰かに話して共感してもらいたいという欲求です。
トラブルにある人を支えようとする周囲の人たちは、何を感じたのか、何があったのかを詳しく話すように本人に求めます。それについて話している間、彼らは頷いて共感を示します。それによって本人は嫌な体験をまたも頭の中に呼び起こしてしまうし、周りの人もその嫌な体験を追体験して、怒りや嫌悪を共有してしまうのです。
これを繰り返しているとどうなるかはわかるでしょう。支援して寄り添うことを求めていたはずが、追体験の繰り返しによって嫌な感情が増幅され「もっと怒ろう」「もっと憎悪を」という扇動へと容易に転じてしまうのです。
一対一のリアルの対面でもこのようなことが起きるわけですから、「聴いてあげるよ」と寄り添ってくれる人が無数にいるSNSの世界で、この増幅が何倍、何十倍、何百倍へとスピードアップするのは当然の結果です。それがSNSの「怒り」の蔓延へとつながり、運動を過激化する後押しする結果となったのではないでしょうか。
SNSは、感情的欲求を引き出しやすい装置です。われわれは知らず知らずのうちに、感情的欲求の囚人になってしまっている可能性があるのです。もちろん怒りが必要なことももありますし、それは否定しません。しかしいまのツイッターを見ると、ただ怒りだけがひたすら増幅して、その先に建設的な答えをなにも見いだすことがない状態に陥っていることが多いのではないでしょうか。
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