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【Vol.462】冷泉彰彦のプリンストン通信『2022年をどう総括するか』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「2022年をどう総括するか」  2022年を見送ろうとしていますが、今回の「年忘れ」というのは、かな り難しい作業になるように思います。通常の年の瀬に行う回顧ということでは 済まないように思うからです。  そこで、まず、主要なニュースを数点箇条書きにしてみることにしました。 1)ロシア=ウクライナ戦争 2)中国新体制 3)欧米での「ウィズコロナ」定着 4)FTX破綻 5)TWTR、メタの迷走 6)EV元年(?) 7)QE2逝去 8)日本経済の衰退感顕著に 9)米中間選挙が見せた政治的均衡 10)米経済の強引な軟着陸ターンアラウンド 11)独クーデター未遂 12)安倍晋三氏遭難と宗教問題  この中で1)は回避できたかもしれない大事件が起きてしまったということ で、明らかに政界史的大事件ですが、この1)を含めてすべての問題が現在進 行形であり、2022年には全く決着がついていません。つまり課題として2 3年に先送られる内容ばかりです。7)のQE2逝去という事件も、立憲君主 制(コンスティテューショナル・モナキー)というシステムの動揺が顕在化さ れたという意味では、終わりではなく始まりだからです。  前置きはそのぐらいにして、順に見て参りましょう。  まず、1)のロシア=ウクライナ戦争ですが、常識的にはプーチン体制とい う極めて権力集中型の政体が、プーチン自身の加齢と、過度に依存してきた化 石燃料産業の衰退という2つの困難に対して、「敵を外に求める」という政治 の常套手段に訴えた現象のように見えます。  それはそうであって、それ以上ではないのかもしれません。プーチンの加齢 というのは、それによって判断が衰えたということもありますが、加齢に直面 しつつ後継を選択するシステムがない中で、強引に求心力を維持しなくてはな らない構造を露呈したということです。  ただ、この切り口というのは余りにも人間的であって、政治的考察を越えま す。そこで、この1)という問題は、21世紀中葉に向かう中での、各国の領 土・政体の正当性が問い直されたという切り口で考えたいと思います。  考えてみれば、1990年から91年にかけてのソ連邦の解体では、旧共和 国の独立と、旧ロシア連邦の維持という「国境の線引き」がされました。この 当時は、目立った紛争はアルメニア=アゼルバイジャンの紛争ぐらいで、この 場合は旧共和国同士の葛藤ということでしたから、ロシア連邦の「国のかた ち」という問題ではありませんでした。  ただ、90年代の後半にはチェチェン問題が顕著な問題として浮上。結果論 としてはこの問題を利用することで、プーチンという人物は政治的な権力を手 中に収めたのでした。また、チェチェンに関して極めて強引な解決をしたこと で、「旧ロシア連邦内の自治共和国の独立は絶対に認めない」というロシアの 「国のかたち」が事実上成立したわけです。  東欧から中央アジアにおけるソ連解体後の国境問題、あるいは「国のかた ち」問題はこれで一段落したように思われました。ですが、今回のウクライナ における熱い戦争は、「そうではない」、つまり旧ロシア連邦内だけでなく、 旧ソ連の各共和国に対しても、プーチン体制は安全保障上、自国の勢力圏内と しておかないと「安全感がない」ということを暴露してしまったわけです。  問題は、これをどう落とし所に落とすかであり、ジョージア(旧グルジア) の問題もこれに重なってきます。具体的には南オセシアとアブハジアの問題で す。そして、現時点ではプーチンへの同伴を強いられているベラルーシ、そし てプーチンの圧力をより感じ始めているバルト三国の問題があります。  ウクライナ和平というのは、ロシアとウクライナの二国間の問題ではなく、 このような「ロシアの国のかたち」という問題に帰結する大きな問題になるわ けです。例えばですが、中国などがベドジェーベフなどを利用して、功利的な 停戦を仕掛けて結果的に「上手く」行ったとします。  思い切り仮の話として、そこである種の「ディール(取引)」が成立して、 プーチンの命は取らない、名誉も取らない、但し隠居させて後継はメドジェー ベフ、これを習近平が後援する、クリミアとドンバス以外は撤退という事にな ったとします。その場合に、プーチンは完全に政治的に抹殺されて退場となっ たとしても、後継の政権は、対西側の完全な和平というのは難しいと思いま す。  チェチェンは民族ごとドゲスタン幽閉が継続、南オセシア、アブハジアは変 わらず、ベラルーシも位置づけはそのまま、バルト三国への圧力も同じという ことでは、仮にロシアの政権が弱体化して、何らかの「戦争という劇場による 求心力」が必要となった場合には、「何か」が起きる可能性は残ります。  ロシアというのは、どのような定義の国家であり、国境線はどのように安定 できるか、この点がハッキリ決定できて、関係国で合意できるということに持 っていかないといけません。米欧中の誰かが主導して、大局観を持ってロシア と向き合うことが必要ですが、仮にそれが中国だとして、今のように「つまみ 食い」外交では非常な不満が残ります。  中国はロシアの冒険主義には同伴せず、しかし完全に欧米側に与することも なく、是々非々のポジションを維持して行くようです。それは仕方がないにし ても、とにかく今回のウクライナ問題に関しては、まず物理的な停戦という 「実効」を見せて欲しいですが、その上で、是非とも大局観をもってロシアと 向き合って欲しいと思います。そうした責任を追わず、けれども一定の影響力 は保ちつつ、是々非々の交渉カードとして中国はロシアを使い続けるというの が「中国の作戦」なのであれば、日本やアメリカはそのように受け止めて対処 を考えなくてはいけません。  最悪の場合は、どのプレーヤも大局観は持たずに、対処療法的にロシア問題 に向き合うことになり、やはり物理的な抑止力、化石燃料依存の克服といった 具体策を進める必要が強く求められます。(続く)

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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