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佐々木実氏:今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」[マル激!メールマガジン]

マル激!メールマガジン
マル激!メールマガジン 2023年1月11日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ────────────────────────────────────── マル激トーク・オン・ディマンド (第1135回) 今あらためて巨人・宇沢弘文に学ぶ「われわれが本当に失ってはならないもの」 ゲスト:佐々木実氏(ジャーナリスト) ──────────────────────────────────────  2023年最初のマル激は、長年にわたるインタビューをもとに伝説の経済学者・宇沢弘文氏の伝記を著したジャーナリストの佐々木実氏をゲストに招き、宇沢氏の思想を改めて振り返り、氏がどのような社会を展望し、われわれは今、そこから何を学ばなければならないのかなどについて議論した。  リーマンショックや新型コロナウイルスによるパンデミックは、これまでわれわれが無批判に推し進めてきたグローバリゼーションの脆弱性を露呈させた。またロシアによるウクライナ侵攻に起因する食料やエネルギー危機によって、ボーダーレス化した世界経済はいたるところでサプライチェーンが寸断され、事実上の麻痺状態に陥っている。  2014年に86年の生涯を閉じた宇沢氏は生前、グローバル化やその背後にある新自由主義的思想は人が生きる上で必要な「社会的共通資本(Social Common Capital)」を破壊すると主張し、これを厳しく批判してきた。社会的共通資本とは、山河などの自然環境や道路や鉄道などの社会インフラ、教育や医療などの制度資本のことで、市場経済に組み込まれない人間にとって共通の財産を指す。そして今、宇沢氏の懸念がいたるところで顕在化しようとしている。  東京大学理学部数学科を卒業した宇沢氏はもともと数学者としての天才的な能力が注目されていたが、世の中を良くするための仕事に就きたい一心で数学者の道を捨て、経済学者に転向した。幼くして戦争を体験した宇沢氏には、社会が激動する時に暢気に数学を勉強しているのが耐えられなかったと言う。  後にノーベル賞を受賞するスタンフォード大学のケネス・アロー教授の招きで1956年に渡米した宇沢氏はベトナム戦争に疑問を持ち、アメリカの経済学がこの戦争の理論的裏付けを提供していることに強い抵抗を覚えるようになる。例えば、同僚の経済学者たちが、限られた予算の中で一人でも多くのベトコンを殺すための「キル・レイシオ(kill ratio)」などという概念を提唱しているのを見て、その背景にある市場原理主義の危険性をあらためて再確認したという。  1964年、宇沢氏はミルトン・フリードマンなどを擁し、当時のアメリカ新自由主義の総本山とも呼ぶべき地位にあったシカゴ大学に移っているが、それは経済学の誤った流れを変えたいと考えたからではないかと佐々木氏はいう。1968年に突如日本に帰国した理由について宇沢氏は多くを語らない。しかし、帰国後の彼は、それまでの数理経済学者としての活動とは大きく活動内容を転換させ、水俣病などの公害問題や成田空港を巡る三里塚闘争などに深々とのめり込むようになる。  こうした宇沢氏の変節については、一時はノーベル経済学賞に最も近い日本人と呼ばれ、アメリカの経済学会でも注目されるスターだった数理経済学者が、おかしな活動家の道に入ってしまったのは残念なことだなどと言われ、酷評されることも少なくなかった。しかし、今振り返れば、帰国してからの宇沢氏は経済学者として社会的共通資本の価値を証明することこそが、彼の学者としての使命だと確信して活動していたのではないだろうか。  宇沢氏は帰国後、日本における新自由主義思想に基づく「改革」の実践の立役者となった竹中平蔵氏とも意外なところで接点を持っていた。しかし、竹中氏の「改革」の背景にある反ケインズの思想を、より根本的な次元で批判していたのが宇沢氏だった。  宇沢氏がアメリカで輝かしい未来を捨ててまで、経済学者として自分の人生を懸けて証明しようとしたものは何だったのか。今こそあらためて宇沢氏の主張に耳を傾け、今日本が、そして世界が、宇沢氏から学ぶべきものが何だったのかを佐々木氏とともに、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が考えた。 ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・巨人・宇沢弘文にとっての学問の原風景 ・宇沢弘文と論敵ミルトン・フリードマンとの邂逅 ・経済学を見渡すことのできた宇沢弘文が帰国後に選んだテーマ ・「大切なものを守りたい」宇沢弘文の心 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ 巨人・宇沢弘文にとっての学問の原風景 神保: こんにちは、そして明けましておめでとうございます。これが新年第1回目のマル激となります。ネタばらしをしてしまうと、これは2022年の旧年中に収録をしていますので、現場収録をする番組としては宮台さんの復帰第一戦となります。3週間ぶりに戻ってきた感じはどうですか。 宮台: いつもいる場所なので特に大きな感慨はありません。ただ、神保さんは僕につきっきりでいてくれたので、そんなに離れた感じはしないです。 神保: これが新年最初のマル激ということですが、マル激では新年第1回目はできれば細々としたものではなく、大きなテーマでやりたいという希望があります。2022年の最初のマル激は神野直彦先生がいらっしゃいましたが、今回は神野先生の先生について、われわれは今何を学ぶのかという番組をやりたいと思います。 宮台: 今日のテーマは「学問は社会において何をするのか」、あるいは「知識人の社会的役割は何なのか」ということになると思います。放送の中立性と同じように学問の中立性もあり、例えばマックス・ヴェーバーの「価値自由(Wertfreiheit)」という概念は日本で完全に誤解されているんです。そのことも、学問からの倫理性の欠落に大いに貢献しています。 神保: 中立と中道の区別がついていないということですよね。

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  • ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が、毎週の主要なニュースや争点を、当事者や専門家とともに独自のアングルから徹底的に掘り下げる『マル激トーク・オン・ディマンド』の活字版です。世界がどう変わろうとしてるのか、日本で何が起きているのかを深く知りたい方には、必読です。
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