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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.1.16 Vol.738
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【今週のコンテンツ】
特集
なぜ社会正義の人たちは表現の自由に反対し、排斥に走るようになったのか
〜〜〜問題作『「社会正義」はいつも正しい』を読み解く
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
なぜ社会正義の人たちは表現の自由に反対し、排斥に走るようになったのか
〜〜〜問題作『「社会正義」はいつも正しい』を読み解く
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早川書房から『「社会正義」はいつも正しい』という話題の本の翻訳が年末に刊行されました。ところがnoteに掲載された山形浩生さんの巻末「訳者解説」全文9000文字が、公開停止になるという前代未聞の騒動が起こりました。以下のTogetterにごくかんたんにまとめられています。
★早川書房『「社会正義」はいつも正しい』 訳者解説WEB公開中止問題 (2022/12)/まとめのまとめ
https://togetter.com/li/1988538
早川書房は「出版社がなんらかの差別に加担するようなことがあってはならず、ご指摘を重く受け止めております」と説明していますが、この「ご指摘」が何だったのかはよくわかりません。また担当編集者は「私はテキストが持ちうる具体的な個人への加害性にあまりに無自覚でした。記事により傷つけてしまった方々に対して、深くお詫び申し上げます」とツイート。しかしこの「個人への加害性」も具体的に説明されておらず、不可解な騒動としか言いようがありません。
書籍に掲載されている「訳者解説」は山形さんらしいわかりやすい文体で、本文よりもこちらを読んだ方がすっきり理解できるでしょう。ただところどころに過激な批判が忍ばされており、これがなんらかの逆鱗に触れたのだろうということは想像はできます。
★『「社会正義」はいつも正しい 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて』Kindle版
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さて、そのうえで本書は読んでみれば実に素晴らしい内容だったというのが、わたしの読後感です。求めていた回答が、まさにこの本にあったからです。
わたしが「求めていた回答」とは何でしょうか。それは表現の自由をはじめとするさまざまな自由の権利を擁護してきたリベラリズムが、なぜキャンセルカルチャーを乱発して表現の自由を制限する行為に走るようになったのか。なぜ多様性を訴えていたはずなのに、特定の思想や党派だけを許容し、他の思想には排斥的になったのか。さらにはなぜリベラルと名乗りながら、抑圧的で保守的なパターナリズムのような言動の人が多いのか。
当初、わたしはこの謎を日本独自の現象なのかと考えていました。しかし2010年代終わりごろになって、米国から入ってくるさまざまな情報に触れ、特にキャンセルカルチャーで大学研究者などの座を奪われる人が続出している状況を見て「日本だけではなかった。アメリカでも起きているのだ。いやそれどころか、アメリカがこの逆回転の本場であり中心地ではないか」と認識を新たにするに至ったのです。
ではいったいなぜ、米国でも日本でもこんなことが起きているのか。それをポストモダンという現代思想の潮流から解き明かそうとしたのが、この『「社会正義」はいつも正しい』という本なのです。
山形さんのわかりやすい文章で翻訳されてかなり読みやすくなっていますが、それでも現代思想の用語などもあちこちに出てきたりするので、万人向けというほどではありません。訳者解説によると、本書はフィナンシャルタイムズの年間ベストブックにも選ばれるなど向こうではベストセラーになっていて、その流れで内容をよりわかりやすくかみくだいた「読みやすいリミックス版」も刊行されているそうです。
リミックス版もぜひ日本で出してほしいと思いますが、早川書房が平身低頭している状況では難しいのかもしれません。本書が絶版にされなかっただけでもまだマシだったと言えるのかも。
なので本メルマガでは、この本の内容を、ざっくりとかんたんに説明していきます。本書では反差別やマイノリティ支援などの運動をまとめて「社会正義」と呼んでいるので、それにならって左派的な社会運動をここからは「社会正義」と呼びましょう。
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