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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.1.23 Vol.739
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【今週のコンテンツ】
特集
社会正義な人たちは、中世カトリック教会やポピュリスト右派に似ている
〜〜〜英エコノミスト誌が特集で指摘した大きな問題とは
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
社会正義な人たちは、中世カトリック教会やポピュリスト右派に似ている
〜〜〜英エコノミスト誌が特集で指摘した大きな問題とは
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「リベラリズム」ということばの定義が近年、大きく揺らいできてしまっていることは内外の多くの人が指摘しています。
そもそもリベラリズムとは何でしょうか。その源流にあった背景事情は、ヨーロッパにおけるキリスト教会の支配です。カトリック教会は長い中世の時代に支配と隷従で人々を縛り付けてきました。異端審問や魔女狩り、焚書など日本のアニメにもよく使われる恐怖のモチーフはたいていこの時代のものです。
この支配と隷従からの脱却の思想として、リベラリズムはスタートしたのです。聖書だけを金科玉条とするのではなく、科学に基づいた合理的な考えや、議論による多様な意見の交換、そして宗教と政治の分離を求めたのです。
リベラリズムは直訳すれば「自由主義」ですが、この古典的な自由の考え方は、「支配からの自由」「圧政からの自由」というようにつねに「~からの自由」でした。しかし19世紀に入ると、この自由への考え方も少しずつ変わっていきます。格差社会への目線が共有されるようになって、みんなが自由にビジネスをしているだけでは、格差が広がるばかりということが言われるようになります。そこで格差を解消し、「みんなが安心して暮らせる自由」「文化的な生活を送る自由」という「~への自由」を実現しようということになったのです。
これが積極的自由と言われるもので、特にアメリカではこのリベラリズムが広まりました。その流れを抑えたうえでの現代のリベラリズムの基本理念は、こう定義することができるでしょう。
「人々には生まれながらの自由がある。みんなが自分で人生を選択し、自由に生きていくためには、それを妨げるような格差や不公正さを取り除かなければならない」
ところが。
21世紀に入って、このリベラリズムが再び危機に瀕しています。しかもその危機の原因は、トランプのような右派の台頭ではなく、「リベラル」と名乗っている勢力の内側からやってきているのです。
英エコノミスト誌は一昨年、2021年9月4日の号に「リベラル左派の脅威」という特集記事を掲載しました。
★The threat from the illiberal left | The Economist
https://www.economist.com/leaders/2021/09/04/the-threat-from-the-illiberal-left
この中でエコノミストは、いまのリベラル左派はかつてリベラリズムが戦ったはずの宗教国家と同じようなことをしている、と強く批判しているのです。
リベラリズムが、右派から攻撃され続けてきたことはもちろん間違いない事実です。いまもアメリカでは、トランプを支持する右派の人たちと民主党支持のリベラル派の間で激しい応酬がおこなわれていますm。しかしリベラリズムは、トランプのような右派からの攻撃だけではなく、左派からの攻撃にもさらされているというのが、エコノミスト誌の指摘です。
この左派の人たちも「リベラル」を自称しているのがわかりにくいところです。「左派」という用語はマルクス主義者の意味にもなってしまい、リベラルとは本来はイコールではないという根深い問題もあります。「リベラル左派」という用語もありますが、ここには自己矛盾がはらんでいるとも言えるのです。
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