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「錬金術」と「アルコールの発見と蒸留術、錬金術、そして植物療法」

BHのココロ
  • 2023/02/02
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今月は、昨秋に書いた短尺の記事を2本ほどお送りします。ひとつは、いま丸善出版で企画が進行している『西洋中世文化辞典』に寄稿することになっている「錬金術」について記事です。もうひとつは、20年前にもアラビア特集で寄稿しました僕にとっては古巣?の業界紙『アロマトピア』の2022年12月号に、あらたに寄稿した「アルコールの発見と蒸留術、錬金術、そして植物療法」です。いつか蒸留の歴史についての小著も書きたいと思っているので、後者はその雛形だと思ってください。 「錬金術」  錬金術とは、鉄や鉛といった卑金属を金や銀のような貴金属に「変成」させることを目的とした知識と技術の総体である。錬金術の伝統では、自然界の何らかの要因によって貴金属に「成長」できなかった卑金属は、病気を患っていると考えられた。それを治療できる変成剤「エリクシル」は、人間にも効果があるという解釈が広まり、医薬としての有効性や長命の探求も重要な目的として認識されるようになった。したがって、金属変成と医学への応用が、中世錬金術における主要なテーマとして特定できる。 現代に流布している魔法に類するイメージ、あるいは「神との合一」をめざす神秘主義的な傾向や「人間精神の完成」といった心理学的・疑似宗教的な読み込みは、19世紀後半のイギリスに端を発し、ヴィクトリア朝下の心霊主義のなかで展開したものであり、近代以前の錬金術の歴史的な実像からは乖離している。中世錬金術を理解するためには、こうした後世に生まれた誤信から解放されなければならない。 ・誕生・   錬金術は、紀元後3世紀頃のエジプトで誕生したと考えられている。当時のエジプトは、ローマ帝国の支配下にあり、ギリシア語文化圏に組み込まれていた。したがって、錬金術についての最初期のテクストの大多数がギリシア語で書かれている。ヘルメスなどの神話や伝説の人物と実在の人物が混同されたケースを除き、歴史的な実在とその著作が確認できる最初期の人物が、偽デモクリトスやパノポリスのゾシモスである。後者の著作に見られる基本的な考えや作業、器具や装置は、近代までつづく錬金術の伝統で継承されている。 ・イスラム圏での成長・  ギリシア語の科学書や医学書、占星術書とともにアラビア語への翻訳を通して、錬金術はイスラム圏に伝搬した。顕著な例として、伝説の錬金術師ジャービルに帰される「ジャービル文書」が9世紀後半から10世紀にかけて複数の著者によって執筆された。その最初期に成立した『慈悲の書』をはじめとして、エリクシルの探究を軸に、動植物に由来する血液や毛髪、卵などを含む多様な事物をもとにした議論が展開されている。 西洋中世への伝搬という観点からは、哲学者イブン・シーナーに帰される偽書『錬金術における霊魂について』が、イスラム支配下のイベリア半島で執筆され、ラテン語訳されて大きな影響力をもった。

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