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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.1.30 Vol.740
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【今週のコンテンツ】
特集
「社会正義派」からリベラリズムを取り戻すために必要なこととは
〜〜〜本当の多様性と言論の自由を奪われないために
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
「社会正義派」からリベラリズムを取り戻すために必要なこととは
〜〜〜本当の多様性と言論の自由を奪われないために
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現代リベラリズムは、このような理念を持っています。
「人々には生まれながらの自由がある。みんなが自分で人生を選択し、自由に生きていくためには、それを妨げるような格差や不公正さを取り除かなければならない」
ところが、本来はリベラリズムを推進するはずだった人たちが21世紀に入って一面的な社会正義を押し付けるようになり、リベラリズムそのものが危機に陥っています。表現の自由を擁護していたはずなのに、キャンセルカルチャーを乱発して自分たちの意に沿わない研究者たちを職から追い払い、昔は宗教保守派が行っていたような性的な表現を抑圧する側にも回っています。
多様性を訴えてきたはずなのに、自分たちが認める一部の「弱者」「マイノリティ」以外の多様性は認めず、意に沿わない思想に対してはきわめて排斥的です。
こうした光景には、昭和のころにたくさんいた「抑圧的で偉そうな中年男性」を見ているような既視感があります。先週号でも紹介しましたが、英エコノミスト誌は「リベラル左派は、中世カトリック教会のような宗教国家へと復帰している」と警告を発しています。
彼らはもはやリベラリズムからは遠い存在になってしまったので、先週号に引き続いて彼らのことを「社会正義派」と便宜上呼ぶことにします。それにしても、なぜこんな逆回転が起きてしまったのでしょうか。山形浩生さんが翻訳した『「社会正義」はいつも正しい』は、その原因をポストモダン思想に求めています。
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1980〜90年代に日本でも一世を風靡したポストモダン思想は、かんたんに言えば「現実をどう見るのか」という姿勢には普遍性など存在しないという考え方をとります。普遍的な事実や客観など存在せず、それらは社会の成り立ちや言語や教育によって自分がそう信じ込ませられているだけと考えるのです。
社会正義派の人たちは、この考えを応用したのです。「さまざまな差別や権力関係は社会のなかに知らず知らずのうちに埋め込まれており、人々はそれに気づいていないのだ」と。
ここから、近代的な理性や科学も欧米の白人男性の権力によって構築されたものだから、信用ならないものでありひっくり返さなければならない。アジアやアフリカの女性たちの考えに寄り添うことが最も正しいことなのだ、というような方向に進んでいきます。つまりマイノリティの気持ちの方が、理性や科学よりも上位であると社会正義派は考えるようになったのです。
これはきわめて過激で危険な思想であるのは間違いありません。アメリカではこの過激思想が大学などを席巻しているようにも見えます。日本にもその萌芽は見えかくれしていますが、これが社会を覆うようになることには断固として立ち向かわなければなりません。
では、どうすれば良いのでしょうか。
まず第一に、議論の多様性を死守すること。
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