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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.2.6 Vol.741
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【今週のコンテンツ】
特集
タワマン文学とマイルドヤンキー文化の断層が21世紀の日本には広がっている
〜〜〜地方のヤンキー文化と、そこからこぼれ落ちるホーボーたち
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
タワマン文学とマイルドヤンキー文化の断層が21世紀の日本には広がっている
〜〜〜地方のヤンキー文化と、そこからこぼれ落ちるホーボーたち
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インターネットが普及してさまざまな知識が得やすくなった反面、わたしたちの認識は自分の視界に入るところに限定されてしまっている状況を近年強く感じます。いまの20代〜30代の都市生活者の多くは都市出身で、地方生活がどんなものなのかという肌感覚がわからない。いっぽうで地方に住んでいる人たちはもはや都市への憧れなど持っておらず、多くが自分たちの仲間の中だけで充足している。
日本は1980年代ごろまでは「総中流社会」と呼ばれていましたが、この総中流という幻想が崩壊して社会が多様になりさまざまなグラデーションができているのですが、ところが「自分のいる場所」の外側に対する関心は逆に失われているように感じます。日本社会を「われらの社会」と捉える概念も薄れてきている感があります。
そこで今回は、21世紀の現在の社会がどのような多層構造になっているのかを解きほぐしてみることにしましょう。
まずは映画の話を入り口に。
海外から入ってくるさまざまな映画を見ていると、近年は「欧米中心の世界」というのが急速に薄れてきていることを感じます。欧米だろうが東南アジアだろうがアフリカだろうが、どこに住んでいても同じような都市型のライフスタイルがあり、同じような価値観の人がたくさんいる。そういうことをあらためて強く感じるのです。
1980年代ぐらいまでは多くの日本人はアメリカ映画やフランス映画を観て、白人社会にカッコ良さを感じて憧れを抱いていました。いっぽうで東南アジアやアフリカなどの第三世界の映画に対しては、自分たちの生活とは違う貧しく抑圧された生活に驚き、ある種の優越感とともに鑑賞していたことは否定できないでしょう。
たとえばコカ・コーラの日本法人は、1960年代ぐらいからテレビCMを放送し続けています。わたしの手もとに『The Coca-Cola TVCF Chronicles』という2枚組のDVDがあるのですが、これを観ているとわかるのは、1980年代なかばごろまではCMの登場人物は大半が白人もしくはハーフの男女ということ。これが80年代末のバブル期になってくると、飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時の『「NO」と言える日本』(1989年に出た石原慎太郎さんと盛田昭夫さんの共著ベストセラーのタイトルです)の影響もあってか、純日本人が中心のCMへと変わっていったのです。
2000年代に入るとグローバリゼーションが進み、それまでは欧米に独占されていた感のあった都市文化が世界中に広がっていきます。たとえばイラン。それまでのイラン映画が貧しい人々を描くことが多かったのに対し、2000年代のイラン映画は都市中流層を多く描くようになります。2009年に『彼女が消えた浜辺』という映画がありました。この映画について、沢木耕太郎さんが朝日新聞の連載コラム『銀の街から』でこう書いていたのを記憶しています。
「登場人物は、これまでの多くのイラン映画と違って、都市の貧困層でもなく、田園地帯の農民でもない。世界中のどこにでもいるような、高等教育を受けた中間層の男女である」
「もちろん、女性たちはチャドルで髪を隠している。また、エリが消えてから、混乱した彼らはさまざまな言葉を投げ掛け合い、その心の底に抱いている伝統的な価値観のようなものを露呈していくことになる。それでも、これが条件なしの『普通』の映画であるという印象は消えない」
沢木さんが言う「普通」というのが、「高等教育を受けた中間層」を指しているのは間違いありません。つまりイラン映画だろうがアメリカ映画だろうが、あるいは日本映画だろうが、同じような「高等教育を受けた中間層」を描き、そうした層の人たちが共感できる物語というのが2000年代になると中心になっていったのです。
いっぽうで、国内の格差は前世紀よりも拡大しています。経済的な格差だけでなく、文化的な格差も広がっているのです。たとえば「タワマン文学」。ツイッターで人気の麻布競馬場さんや窓際三等兵さんが中心になって盛りあがって来た文化ですが、これはまさに21世紀の日本の都市中流層の悲哀や日常を見事に代弁していると言えるでしょう。
★“勝ち組”の生活の悲哀を描く、「タワマン小説」の世界
https://pdmagazine.jp/works/tower-mansion-novel/
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