池田清彦のやせ我慢日記
/ 2023年2月10日発行 /Vol.233
INDEX
【1】やせ我慢日記~『障害者支援員もやもや日記』を読む~
【2】生物学もの知り帖~共食いの生態学について~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『『障害者支援員もやもや日記』を読む』
三五館シンシャから「日記シリーズ」と題する、様々な業種で働く高齢者のリアルな実態を、働いている本人に語ってもらう読み物が出ていて、これがなかなか面白い。今回はその1冊、松本孝夫『障害者支援員もやもや日記』を読んで、いろいろ思う所があったので、その話をしてみたい。
著者の松本さんが働いていた「障害者総合支援法」が規定するグループホームは、1知的障害、2身体障害、3精神障害、4発達障害、5難病を持つ人のうち1と3と4の障害を持つ人を受け入れる施設で、入居者は比較的若い男性5名と女性5名である。
身近に、知的あるいは精神障害者がいない人は、このタイプの障害者がどういう人かよく分からないので、できれば、余り関わりたくないと思うだろう。さすがに、あからさまに差別的発言をする人は稀になって来たけれどもね。私はこの書肆の社長と昔からの知り合いで、この本の新聞広告用の推薦文を書いてほしいと頼まれて、次のように記した。『無知は差別の始まりである。本書を読めば、障害者の人たちが、喜びも悲しみもプライドも持つ、愛すべき我々の仲間だということがよく分かる。支援員である著者の、知性と教養と優しさが光る好著。お世辞抜きに、面白い!』。
知的障害、精神障害、発達障害にも程度があって、コミュニケーションが何とか可能ならば、問題はさほどないが、統合失調症や自閉症で、コトバによる意思疎通が難しい場合は、一般的な社会生活を送るのに難儀することになる。現代人はコトバに強く依存している動物なので、コトバが通じない人は蚊帳の外に取り残されてしまうことになりがちだ。
健常者は、自分の希望や感情をコトバによって苦も無く表現することができるけれど、障害者はこれが難しく、暴力的になったり落ち込んだりすることでしか、表現できないことが多い。コトバが上手く通じないので、最初は何が不満なのか分からないが、障害者にしばらく付き合っていると、肌感覚でコミュニケーションができるようになる人もいるようで、そういう人は支援員に向いている。この本の著者の松本さんもまさにそういう人だ。
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