メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

喘息治療の変遷 パート2その1 1990年代の話

ドクター畑地の診察室
ドクター畑地の診察室178.2023.2.12. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信! https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php **************************** 喘息治療の変遷 パート2その1 1990年代の話  私が初めて吸入ステロイドによる治療を知ったのは、大学卒業1年目、研修医で小児科ローテーション中のことでした。小児科から内科への移行時期はなかなか難しいことが多く、例えば小児期に発症した疾患を引き続き大人になっても加療が必要な時、果たして、そのまま小児科の主治医が診るべきなのか、内科に代わって内科医が主治医になるべきなのか、難しいところだと思います。  当時、18歳の難治性喘息の患者を、小児科の主治医が吸入ステロイドで加療していたことを思い出します。丁度、小児科ローテーション中に勉強することができたので、私の吸入ステロイド初遭遇は小児科で勉強している最中だったわけです。  当時、吸入薬と言えば、発作時の頓服の気管支拡張剤であり、発作の時、吸入し、喘息発作を楽にする薬でした。これらの吸入薬は発作を改善させる点では非常に有効なのですが、例えば連用すると、喘息を難治化させてしまうリスクや、特にベロテック(1吸入の容量が多かったため、よく効くけれど、不整脈を助長することがあった)と言う吸入薬では問題になりましたが、突然死を誘発するリスクもありました。この ように、発作時に使用して、短期的に発作を楽にする薬を「リリーバー」と言いますが、吸入ステロイドは全く違います。発作の時に使用しても全く役に立ちません。毎日喘息患者が定期的に吸引することにより、喘息発作そのものを起こりにくくするのが吸入ステロイドの役割なのです。このような吸入薬の「コントローラー」と言います。  当時、吸入ステロイドとしては、「アルデシン」と言う薬と、「ベコタイド」と言う薬があり、両方とも非常に効果的で、難治性喘息の患者がみるみる良くなったわけですが、これにはコツがありました。直接吸入させるより、スペーサー「エアロゾルを入れる袋のようなもの」と言うものを使ってその中に一旦エアロゾルを入れた後、ゆっくりと喘息患者に吸入してもらい、その後10秒程度息止めするのがコツでした。  研修医が終わり、最初に赴任した紀南病院でその治療を行いました。発作時に吸っても全く効果がないことを説明した上で、しっかりと定期的に吸入ステロイドを知っていただくと、難治性の喘息患者がみるみる良くなったわけです。ただし、直接口の中に入れて吸入させるより、スペーサーを使用して、しっかりと吸入指導をした上での話です。  喘息患者に対するステロイドの吸入を知ってからと言うもの、今まで悩んでいた喘息患者さんが劇的に良くなるため、名医になった気分になりました。そのことが呼吸器内科に入った1つのきっかけでもあります。  何も説明せずに患者さんに処方しても、全く患者さんは吸入ステロイド吸入してくれません。今までのような感覚で発作時に使うからです。この薬は定期的に使うことによってのみ初めて効果を発揮することをしっかり説明した上で、スペーサーを用いて丁寧に吸入指導することが喘息治療の道でした。  副作用を心配する患者さんもいましたが、しっかりと吸入後うがいを行い、口腔内カンジダ症を防止すると、若干の嗄声はありましたが、ほとんど副作用がないことも吸入ステロイドによる治療のメリットでした。  今までは、気管支拡張剤であるテオフィリン製剤と、ほとんど効果のない抗アレルギー剤だけで治療していた喘息にしっかりと本当によく効く薬が登場したわけです。  その後、内服薬にもまずまず効果的な薬が登場しました。現在ではアレルギー性鼻炎の特に鼻閉にも用いられる「ロイコトリエン受容体拮抗薬」です。この薬は現在でも用いられておりますし、喘息患者さんにある一定の効果はあります。しかしながら吸入ステロイドほどの効果はなく、この年代での喘息治療の主役はアルデシンとベコタイドだったわけです。 続く  全く話は変わりますが、本ネタ  小川哲さんがすごい作家だと書きました。そこで彼の2作目の長編である「ゲームの王国」読んでみました。考えようによっては、重厚な小説ですが、一気に読みました。カンボジアのポルポト政権の歴史小説かと思いきや・・・何と言う展開なんだと絶句。後書きを読むと、小説の分岐点で悩んだ時、1番書きにくいと思う展開で小説を書き、行き詰まると書き直しの繰り返しで、実際の小説よりも数倍の原稿を没にした とのこと。道理でこの展開なんだと妙に納得した。中学時代に一回しか見ていない映画なので、印象しか残っていないが、私にはフランシスコッポラの「地獄の黙示録」そっくりに思えた。ベトナムとカンボジアの違いはあっても、荒唐無稽さと、そこから伝わるパワー、訳わかんないが妙に説得力があるところなんか全く同じ印象。僕と同じ感想を言う評論家が1人位いてもいいのにと思う。    直木賞の「地図と拳」は歴史をテーマとしたSFと言う点では同じだが、小説の手法としてはかなり違う印象です。「地図と拳」は計算された小説だが、この小説はワンシーンのつぎはぎで成り立つ荒削りな映画小説。膨大な原稿を書いて、映画のようにつぎはぎで編集したんだとひしひし伝わる小説です。いやもう、こんな訳わかんない話を、荒唐無稽なのに、一気に読ませるとは、すごい作家だと感じた次第です。最近自分の一押し面白本、「君のクイズ」と同じ作家が書いたとは思えないんだけど。作家業が忙しくなると、こんな小説書けなくなると思うので、数年に一度位は、こんな小説をまた書いて欲しいと切に願います。 ***************************** ドクター畑地の診察室178.2023.2.12号 毎週日曜日お昼に配信予定です。 次号は2023.2.19.です。 お問合せ、感想などはコチラまで zm.magumagu@gmail.com 畑地 治 https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身 自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 https ://mie-matsu-kokyuki.mars.bindcloud.jp/ https://www.facebook.com/mch.respiratory.center/ 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け!radioを聴いてらんらんらん(lung lung lung)」という毎週月曜日放送の番組を担当

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • ドクター畑地の診察室
  • 現役呼吸器内科、総合内科専門医のメルマガです。世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います!おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者(肺癌、喘息、COPD、肺炎など)を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説&ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信!
  • 220円 / 月(税込)
  • 毎週 日曜日(年末年始を除く)