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週刊Life is beautiful 2023年2月28日号: Software2.0の時代に最適なアーキテクチャ

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん Software2.0の時代に最適なアーキテクチャ Software2.0について書いていて思い出したのが、私が生まれて初めてコンピュータに触れた時の勘違いです。 当時の私は高校生で、科学と数学が大少な「理科系少年」ではありましたが、コンピュータの知識は皆無でした。ひょっとしたきっかけから、NECのTK-80というワンボード・コンピュータの組み立てキットを手に入れ、初めて握ったハンダゴテで組み立てたのは良いものの、そもそもコンピュータがどう動くかを全く理解していなかった私にとっては、最初は全くの「手探り状態」でした。 マニュアルに従って、16進のサンプル・コードを打ち込んで行けば、ちゃんと動くのですが、その16進の数字が何を意味するかが全く理解できず、マニュアルに書いてある(Intel8080の)インストラク・ションセットが何を意味するのかも全く理解できませんでした。 そんな行き詰まった状況が1月ほど続いていたのですが、1ヶ月もがいてようやく、「コンピュータは与えられたプログラムを順番に読み込んで実行するものだ」ということに気が付き、そこで一気に目の前が開けたことを良く覚えています。そんなアーキテクチャのことを「フォンノイマン型」と呼び、コンピュータに関わる人たちにとっては常識だったようですが、予備知識なしにいきなりプログラミングに飛び込んだ私は、その「最初の一歩」で躓いてしまったのです。 今でも覚えていますが、それまでの私は、コンピュータとは人間の脳のようなもので、メモリの中には色々な知識が詰まっており、外部からの入力に対しては、その知識すべてを総動員して(=メモリの全てに並列にアクセスして)、処理を行うものだとばかり思い込んでいたのです。 今になって考えてみれば、「とんだ勘違い」ですが、ニューラルネットワークを活用したソフトウェア(Software2.0)は、それに近い動きをしています。実際には全ての計算を並列に行うことはできないため、GPUなどを使って「可能な限り並列に」処理をしているものの、その中心には、「フォンノイマン型アーキテクチャ」で動くCPUがあり、それが「擬似的に」人間の脳みその動きをエミュレーションしているだけなのです。 そう考えると、Software2.0が世の中の多くのソフトウェアを置き換える時代になると、コンピュータのアーキテクチャもそれに最適化されたものに変わっていく可能性は十分にあり、そのアーキテクチャに関して、色々と妄想を膨らますのも悪くないと思います。 人間の脳みそはネットワーク上に繋がれたニューロンの集まりで作られています。ニューロンそれぞれに計算能力(デジタルではなくアナログ計算機)があり、それが物理的に分散しているため、並列処理が得意なのです。さらに素晴らしいのは、アナログ計算機であるがゆえに、発火しない(計算の結果、出力がない)ニューロンはほとんどエネルギーを消費しないため、エネルギー効率が非常に良いのです。 それと比べると、「フォンノイマン型アーキテクチャ」のコンピュータでニューラル・ネットワークを実現する場合、ニューラル・ネットワークは仮想的なものでしかなく、実際の計算を行うGPUに対して「仕事を割り振る」必要があるし、その際には大量のメモリを動かさなければならないのです。 さらに問題なのは、すべての計算がデジタル計算機によって行われるため、ニューロンが発火しようがしまいが、同等の電力を消費してしまう点です。 そう考えると、Software2.0の時代に最適化されたコンピュータとは、1、0の値しか処理できないトランジスタの代わりに、アナログ計算ができるアナログゲート(ニューロン・ゲートと呼びます)があり、それらが有機的にネットワークを構成することにより、計算を行うアーキテクチャで作られているべきではないかと思うのです。 ニューロン・ゲートは、入ってくる電流の総量が閾値を超えたら発火すれば良いだけなので、今の半導体技術を応用すれば作ることが十分に可能だと思いますが、ダイナミックにそれらを繋いで、出力に重み付をつけて別のゲートに流すという仕組みは、(どのゲートにでも電流を渡せるように)汎用的に作ろうとすると、その部分が、ニューロン・ゲートそのものよりもはるかに大きな面積を占めることになってしまうのが問題です。 そう考えると、ニューロン・ゲート同士の繋がり(つまりネットワーク構成)は固定化し、それぞれの繋がりの重み付け(パラメータ)だけ後から設定できるようにしたニューロチップを(機械学種ではなく)推論(inference:学習した結果できたパラメータを使って、ニューラルネットワークに計算させること)の部分にだけ使うというのが現実的ではないかと思います。 そう考えると、推論だけでなく、学習までもわずかなエネルギー(と、僅かなデータ)でできてしまう人間の脳は、本当に良く出来ています。ニューラルネットワークを活用したSoftware2.0が一般化する過程で、人間の脳の仕組みの理解がさらに進み、それがハードとソフトの両方のさらなる改良に繋がると期待して良いと思うし、そこには(国・学校・企業・起業家・投資家などが)積極的に投資して行くべきだと思います。 アウトリガーで鯨に出会った話 私は二年ほど前から冬場はハワイで過ごすことにしていますが、この時期の一番の楽しみは鯨です。夏に北極の近くで豊富な餌(主にオキアミ)を食べたザトウクジラ(Humpback Whale)は、冬になると出産・繁殖・子育てのためにハワイ近辺に来るのです。 ザトウクジラは、体長11 - 16m、体重30tと巨大な体を持ちながら、ブリーチングと呼ばれる行動により大きな水飛沫を上げて、それが遠くからも見えるため、ハワイにいる時には、浜だけでなく、ゴルフ場や自宅からもそれを楽しむことが出来ます。 この時期の観光の目玉は、乗合船やチャーター船によるWhale Watchingと呼ばれるツアーで、これであれば確実に鯨を身近で見ることが出来ます。 しかし、一番の醍醐味は、アウトリガーと呼ばれるハワイ式(正確には、ポリネシア人の間に伝わる)カヌーで鯨を見ることですが、移動が簡単ではないので、運良く鯨が岸の近くに来た時にしか経験できない、最高の贅沢です。 今月に入って、何回かトライをしたのですが、なかなかチャンスに巡り会えず、先週の火曜日に、少し離れたところに鯨が見えたので、先回りする方向にアウトリガーを懸命に漕いで待っていたところ、大型バスぐらいの大きさの鯨が二匹、同時に背中を見せてくれたのです。 ちなみに、鯨に関しては、日本人であることが恥ずかしいと感じることがあります。日本政府が、2019年に、国際捕鯨委員会(IWC)から脱退し、翌年から日本の商業捕鯨を再開したからです。 日本政府は捕鯨に関しては「日本の伝統文化を守るため」と主張していますが、 日本で鯨食が盛んになったのは第二次世界大戦後 今の捕鯨は、電気銛を使った近代的な手法 日本の鯨食文化は既に消えつつある(一人当たり年間30グラム) 鯨肉は余っており、一年分以上の在庫が冷凍庫に保管されている 税金を投入し続けない限りは、持続不可能なビジネス という実態があり、典型的な「一度始めたことを辞めるのが難しいので続けている」状態になっています。 この件に関しては、2016年の段階で、BBCが「Japan and the whale」という記事で、「一度確保した予算は手放したくない官僚」と「票を少しでも失いたくない政治家」のはざまで、意味もなく維持されている、と厳しく批判されています。 私の目に止まった記事 台湾アナリストが分析するラピダス、「製造できるが採算合わない」 事業として立ち上がるまで数兆円が必要と呼ばれるラピダスに関して、私はここまで「(日本政府が資金を提供し、関係会社からサラリーマンたちが天下りしてくる、という)座組み」の面での懸念を表明して来ましたが、この記事は、半導体専門のアナリスト目線で、ラピダスが抱える課題を的確にしているという興味深い記事です。 要約すると、 2027年までに2nm世代プロセス半導体を量産するという計画は、技術的には達成可能だが、歩留まりや生産性を高めて収益性のあるビジネスにするのは困難 理由は、経験不足、資金不足、顧客の不在 特に心配なのは、資金です。日本政府はラピダスに700億円を拠出すると発表しましたが、業界トップのTSMCの投資額は、年間4兆円を超えており、量産化に必要とされる資金は数兆円と言われています。巨額の財政赤字を抱え、加速する少子高齢化でますます悪化する国家の財政を考えると、2027年まで日本政府が資金を提供し続けられるとは限りません。 たとえ日本政府の資金援助が2027年まで続いたとしても、資金を提供する日本政府も、ラピダス関係者も、「2027年までに2nm世代プロセス半導体を量産する」ことだけをゴールにしているように見えるのが何よりも心配です。今の段階から「量産体制を作った後、収益が上がる事業にするには、さらにどのくらいの年月と資金が必要なのか」という議論をしっかりとしておき、「収益が上がる事業にする」ことをゴールにしない限り、「(税金を数兆円投入して)2nm世代プロセス半導体の量産化を達成したのに、赤字の垂れ流しで、事業を継続できない」という最悪の事態にもなりかねません。 Microsoft spent over a decade on the new Bing. Then ChatGPT happened.

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