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【Vol.471】冷泉彰彦のプリンストン通信『ウクライナ戦争の出口を検討する』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「教育現場に塾や予備校が入ってくる驚きの理由」  東京都の教育委員会(都教委)は新年度から民間の塾講師を都立高校に招い て受験指導を行うことを決定したそうです。つまり「高校内予備校」の開設と いうわけです。その費用は全額を都教委が負担するということで、実施校は一 部に限られるそうですが、教育費に苦しんでいる家庭には救済になるなどと報 道されています。  この事例ですが、教育者の藤原和博氏が杉並区の区立中学の校長として行っ た「中学での塾の開講」のことを想起させます。藤原氏は「夜スペ」と銘打っ て実施して話題になりました。  ただ、よく見てみると今回の「高校内予備校」と、「夜スペ」を比較すると 単に高校と中学の違いということだけでなく、そもそも企画として正反対だと いうことが指摘できます。  まず「夜スペ」は、勉強が出来すぎて公立中の授業が退屈という層を対象に 行われました。具体的には、今もそうですが東京の場合は中学入学段階で私立 一貫校を受験するのが流行しているわけですが、志望校選択に失敗したとか、 紙一重の運の悪さなどで「私立に行けなかった」生徒が一定程度いるわけで す。  個人的なことで恐縮ですが、私は大昔、大学生の時に学生有志で運営してい る塾で講師をしていましたが、その際に「間違って中学受験で落ちてしまい、 高校受験の際にエリート校に挑戦しなくてはならなくなった1年生」を教えた ことが何度もありました。失礼ながら13歳にして老成し、どこか斜に構えつ つ易しい問題をバカにしたりしている姿には痛々しさを感じたものです。  藤原氏はこの層を学校コミュニティに包摂することで、全体を活性化すると いう深謀遠慮と言いますか、教育者として自然な発想から「夜スペ」を導入し たのでした。  一方で、今回の「高校内予備校」はとにかく貧困家庭の大学進学率を上げた いという狙いでやっているもので、企画の方向性も意味合いも全く別のもので す。  ちなみに、夜スペに関しては、悪質な中道左派などの政治団体から「学校内 で利潤追求の塾に活動させるのは不快」だなどという中傷があり、藤原氏も苦 労されたようです。  今回の「高校内予備校」に関しては、貧困層の救済ということから歪んだ政 治的批判はないようですが、該当校の先生からは、「このために管理責任上休 日出勤しなくてはならないのは負担」という声があるようです。  しかし、政治的に不快だとか、教師が管理するのが大変というような話は全 くの些末な問題です。  問題は、どうして「中学教師が高校入試の指導ができないのか」「高校教師 が大学入試の指導ができないのか」ということです。どういうわけか、教職課 程を取り、正規の免許を取り、教員試験に受かり、長年現場で経験を積んでい るはずの正規の教員には「受験指導が」できないのです。そうではなくて「無 資格の受験のプロ」を集めて営利活動をしている経産省管轄の「塾や予備校」 は受験指導ができるのでしょうか?  これは根本的な問題です。子育ての教育費を押し上げている最大の要因がこ こにあるわけですし、そのために少子化で国家を滅亡に追いやるかもしれな い、そんな問題なのです。  では、「正規の先生は能力が低いので受験指導ができない」のでしょうか?  多くの保護者、生徒はそう思っているのかもしれません。確かに、教師用の指 導書に頼った内容希薄な授業をして平然としている中高の先生はいるかもしれ ません。最近はマルチメディアのツールなどもついてきますし、教科書会社は ネットでの情報提供もしていますので、手抜きをしようと思えばできる時代で す。と言いますか、終身雇用に「あぐら」をかいて手抜きをしてきた「でもし か先生」というのは昭和の時代にはゴロゴロいました。  私は違うと思います。(続く)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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