■人の心は見た目が2割
人生で本当に重要なものは他者との関係だ。最も幸せだった瞬間を
思い浮かべれば、必ず人と関わっているはずだ。最も辛い瞬間も、
同じだ。人生を築くのも、壊すのも、すべて人との関係なのだ。
ところが、人間関係の問題について、多くの人が勘違いをしたり、
混乱している。理由の一つは、人間関係について相反する教えを聞
かされてきたからだ。
たとえば「身なりは人を表す」と言いながら「人を見た目で判断す
べきでない」という。「類は友呼ぶ」「正反対の者同士は惹かれ合
う」ともいう。
「自分らしくあるべきだ」と言いながら「郷に入っては郷に従えと
もいう」こうした格言が科学的に正しいかどうかわからないまま、
信じさせられている。これを科学的に検証していくことにする。
★
人間関係の問題は、相手を正しく認識できていないことに端を発す
ることが多い。誰もが、相手の性格を判断しようとして失敗し、痛
い目に遭ってきている。
人は、第一印象から相手を見極めようとし、何を考えているか知ろ
うとする。嘘を見破り、仕草を読み取ろうとする。だが、その精度
は高くない。しかも時間が経つほど最初の確信を深めようとする。
もちろん、第一印象で人の性格をそこそこ見分けることはできる。
だが、嘘を見抜くことは難しい。当てずっぽうと変わらない。人の
考えや感情を受動的に読み取る力はさらにお粗末だ。
さらに、最初に誤った印象を抱くと、それが心に刻まれてしまう。
その時の敵は自分だ。自分が既に持っている印象に一致するものを
記憶し、一致しないものは忘れようとするからだ。
第一印象で人を見抜く能力は、努力すれば多少は改善する。だが、
そこに重点を置くべきではない。むしろ、最初の解釈を修正する情
報に目を向けるべきだ。
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人間は社会的な種だ。人の心を読み取ることができれば、重宝する
はずだ。にもかかわらず苦手なのには理由がある。人を読み取る精
度の低さは、そもそも欠陥ではないのだ。
たとえば、誰でもパートナーや友人に一時的に否定的な感情を抱く
ことはる。だが、誰かが自分に抱くネガティブな考えをいちいち気
づいていたら不安だ。
ネガティブな情報が多すぎたり、記憶が完璧すぎたりすると、人間
関係はうまくいかなくなる。心を丸くし、大目に見たり、一面の真
実に過ぎないことを見逃したりしたほうがいいのだ。
また、人から善意でお世辞を言われることもある。そのたびに、頭
の中で「真実ではない」と警報ベルが鳴ることは望まないはずだ。
むしろ、その言葉を真に受けて堪能したいはずだ。
「人はたいてい正直だ」と想定したほうが、初期設定として望まし
いのだ。そうするほうが、気分良く過ごせる。長い目で見れば、実
際に良い結果が得られるものだ。
★
このように「人を見た目で判断できる」という格言は、ほぼ真実と
言えるが、注意も必要だ。人を表面的にすぐさま判断しようとする
ことは避けるべきだ。
それでも、多くの研究結果が示すように、人は特に初対面では、常
に見た目で判断しようとするし、それは止められない。判断を保留
することも不可能だ。
だが、訓練して相手の本質を見抜く力の精度はたいして上がらな
い。むしろ、時間が経つほど最初の判断に対する確信を深めていく
だけだ。
だから、人を見た目で正しく判断することに重点を置くべきではな
い。かわりに、間違いなく下してしまう判断を修正するほうに力を
注ぐべきだ。そのほうが、人間関係はきっとうまくいくはずだ。
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