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「2023年前半の活動」

BHのココロ
  • 2023/05/02
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昨年は5月に動向と展望、9月に一時帰国をめぐる報告をしている関係で、年末・年始には動向と展望をお送りしませんでした。昨年ほどではないですが、今春の忙しい活動も大きな山を越したところで、ここまでの動きをお伝えしておこうと思います。 1. 原子論者アナクサゴラス  まずは年が明けての1月後半に、2022年の春にスウェーデンからオンライン形式で開催された国際会議『粉々になる質料形相論』で発表した「原子論者アナクサゴラス」の伝説についての原稿を論文化する作業をおこないました。この議論の直前につくった哲学者ジョルダーノ・ブルーノにおけるアナクサゴラスの受容についての論文と議論が重なる部分もあるのですが、話の建てつけは異なるものです。許容されるか否かは、両論文が発表されてからの人々の反応を見ないと何とも言えないところもあります。 もともとの発表時のタイトルは、「シェキウスと「原子論者アナクサゴラス」の伝説」Jacob Schegk and the Myth of Anaxagoras the Atomist というもので、ルネサンス期のドイツはチュービンゲン大学で活躍したアリストテレス主義者・医学者のヤーコプ・シェック(シェキウス)が、アリストテレスの『自然学』を注解するなかで、アナクサゴラスを原子論者として解説する問題をあつかったものです。 この注解書(バーゼル、1546年)でシェキウスは、これまでヨーロッパでは知られていなかった古代ギリシアのアリストテレス注解者シンプリキオスの『自然学』注解を大いに利用しながら、大胆な解釈を加えています。彼によれば、アナクサゴラスは原子論者だったというのです。彼はシンプリキオスもそういっていると明言しますが、僕自身はシンプリキオスのテクストに、そのような言及を見つけることはできませんでした。おそらくはシェキウスの「自由な」解釈のせいだろうと思っています。  論述の都合上、シンプリキウスのテクストの伝搬や流布についての記述も多いことから、論文のタイトルにはシンプリキオスの名前も入れることにしました。シンプリキオスに関心のある古典学者の眼に留まることも期待しています。 ということで、「シェキウス、シンプリキオス、そして《原子論者アナクサゴラス》」Jacob Schegk, Simplicius and ‘Anaxagoras the Atomist’ という題名にし、少し冗長になりますが、もう少し論集の主旨にもあうことを明示するために、「アリストテレス注解とルネサンス粒子論」Aristotelian Commentaries and Renaissance Corpuscularism という副題をくわえました。 この論文は、国際会議から生まれる論集『粉々になる質料形相論:中世末期の元素、原子、粒子』Hylomorphism into Pieces: Elements, Atoms and Corpuscles in the Late Middle Ages, ed. Sylvain Roudaut & Nicola Polloni (Cham: Spiringer, 2024?) に収録される予定です。イントロのあとに、シンプリキオスにおけるアナクサゴラスの扱いを分析する第1節、つづいてシェキウスの解釈を分析する第2節、最後に短い結語で閉じられるシンプルな構成となっています。この論文の邦訳版は、徐々に本メルマガで発表していこうと思っています。お楽しみに。  アナクサゴラスが原子論者だったというルネサンス期の誤信というか、誤解については、もともと博士論文を書いているときに不思議に思ったことがきっかけでした。もう20年以上も前になります。実際に手にかけようかと考えたのが、2012年からのオランダでの研究計画の立案のときでした。

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