【歩くセールスマン】
「ふー」
みつおはためらっていた。
初めての営業で、初訪問がなかなかできなかったのである。
手伝いでやってた時と違い、本格的に営業マンとして訪問するのはかなり抵抗があり緊張していたのである。
玄関先でチャイムを押すか押さないかでしばらく葛藤していたのだった。
いつまでもここにいるわけにはいかない。
「ピンポーン」
玄関の前で5分もうろたえた後、ようやく勇気を振り絞ってチャイムを押した。
ところが、いくら待っても出てこない。
もう一度押してみたが出てこない。
留守なのだ。
思わずホッとした自分がいた。
訪問営業で留守だからホッとするというのはおかしな話だが、みつおの最初の営業はそうだったのである。
チャイムを押して、出てきたらどうしようと思ってしまうのだった。
「あ、あの、TK企画ですけど」
「何?」
「いや、あのそろそろリフォームとか考えてないかなと思ってですね」
「あぁ、リフォーム屋さん?うちは親戚にいるからいいわ」
「あそうですか、失礼しました」
実際に住人が出てきてもしどろもどろで緊張しまくりだったのである。
しかし、1日まわっているとだんだんと慣れてきた。
「こんにちは、TK企画ですけど、そろそろリフォームとかは考えてないでしょうか?」
「そうねぇ、やりたいけど高いんでしょ」
「それはちょっと分からないですけど、とりあえず見積もりだけでも出してみましょうか?」
「あ、いやそこまではまだ考えていないのでまた今度ね」
「そうですか、ではその時にはぜひ連絡ください」
名刺を渡して帰るのだが、中には名刺を受け取らない人も多かった。
「ま、気がむいた時のために名刺だけでも置いといください」
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