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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.5.8 Vol.754
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【今週のコンテンツ】
特集
作家テッド・チャンのChatGPT批判から、原稿のほんとうの書き方を学ぶ
〜〜〜わたしが文章修行で歩んできた道のりを語ろう
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
作家テッド・チャンのChatGPT批判から、原稿のほんとうの書き方を学ぶ
〜〜〜わたしが文章修行で歩んできた道のりを語ろう
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先週に引き続いて、SF作家のテッド・チャンがニューヨーカー誌に書いたChatGPTについての記事の話題です。
★「ChatGPTはウェブの不鮮明なJPEG(ChatGPT Is a Blurry JPEG of the Web) | The New Yorker
https://www.newyorker.com/tech/annals-of-technology/chatgpt-is-a-blurry-jpeg-of-the-web
ChatGPTは世界を要約してくれるけれども、それは不可逆的圧縮になってしまっていているのではないか?というのがチャンの論旨です。しかもChatGPTは人間らしいコミュニケーションをおこなうので、語っていることがとても真実らしいと感じてしまう。チャンはこう書いています。
「ChatGPTがウェブページから一字一句引用するのではなく、言い換えることで、単に読んだことを書き写すのではなく、自分の言葉で考えを表現しているように見え、ChatGPTがその内容を理解しているような錯覚を起こす。人間の場合でも、丸暗記はちゃんと学習できたという指標にはならない。それと同じように、ChatGPTがウェブページから正確な引用をしないことで、まさに何かを学んだかのように見せてしまう」
チャンの記事にはもうひとつ、面白い論点があります。それはChatGPTを活用して原稿を書くことの是非。ChatGPTにまず草稿などを作らせて、そこから原稿を書いていくという方法は現在、さまざまな人がさまざまに提案しています。
小説家なら、まずChatGPTに粗い小説を書かせて、そこから自分で色づけしていくという方法もあるでしょう。しかしチャンはこの手法には懐疑的のようです。
「あなたが作家なら、なにかオリジナルなものを書く前に、オリジナルではないものをたくさん書くことになる。そこで費やされた時間と労力は決して無駄なものではなく、むしろそれこそが最終的にオリジナルな作品を生み出すことを可能にしているとわたしは言いたい。ことばを選び、文章を並べ替えながら、どうしたら自分の伝えたいことを文章で伝えられるかを学ぶことになるからだ」
「学生にエッセイを書かせるのは、単に理解度を試すためだけではない。自分の思考を表現する経験を積ませることができるのである。過去に読んだことのある文章を書くことができなければ、書いたことのない文章を書くスキルは身につかない」
そしてここからが大事なポイントです。ChatGPTによって書かれた草稿が、かりに人間の書いた草稿と区別がつかないとしても、そのふたつは似て非なるものだとチャンはいうのです。
ChatGPTが書いた草稿が「非の打ち所なく表現された借り物のアイデア」だとしたら、人間の書く草稿は「稚拙に表現された独創的なアイデア」である。チャンはそう指摘しています。その稚拙さに苦しみ、「本当はこういう考えを表現したかったのに」「なのに今の自分の文章力だとこんな稚拙な文章しか書けない。全然自分の考えを表現できていない!」と苦しむ。その距離の遠さを実感することが、良い原稿を書くためのステップになるのだと言います。
これは、過去にたくさんの書籍や原稿を書いてきたわたしにも、とても共感できる指摘でした。
自分史を振り返ってみます。毎日新聞で記者だったころ、わたしが所属していた東京社会部には「名文家」と呼ばれている先輩が何人もいました。当時の新聞紙面は1行が11文字。社会面トップの大きな記事でも100行ぐらいなので、せいぜい1000文字ぐらいしか入りません。この短い原稿に、必要不可欠なファクトだけでなく、思い入れたっぷりの情緒や思想まで流し込む。
「あのような名文家になりたい!」と痛切に願いました。しかし社会部の最前線の新聞記者というのは、日ごろは事件や事故、さまざまなできごとを追いかけているので、長い原稿を書くチャンスは意外に少ないのです。そこで数少ない休日には、自宅マンションでパソコンの前に座って「写経」をたくさんしました。写経といっても仏教のお経を写すのではありません。自分が好きなジャーナリストや作家の文章を、その人が書いた書籍などを睨みながら丸写ししまくるのです。
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