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『 田中優の未来レポート 』
第283号/2023.5.15
http://www.mag2.com/m/0001363131.html
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いまさらだけど、坂本さんに伝えたかったこと
ぼくはたまたまのきっかけで、坂本龍一さんと知り合うことができた。特別親しいわけではないが、なぜかまっすぐストレートに話し合うことができた。それは坂本さんを知る人たちが直截に感じることではないか。自分に特別な意識は全くなく、坂本さんはきっと誰とでもそうしていたのではないかと思う。
ぼくが坂本龍一さんと親しくメールするようになったのは、親しくしていた作家の星川淳さんからの紹介で、「911事件」の直後からメールリストに参加したせいだった。星川さんという平等な視点を持って人をつないでいく人がいなかったら、もちろんぼくが坂本龍一さんと知り合うこともなかっただろうし、このメールリストにつながることもなかったと思う。
星川さんはぼくを誘ってくれて、地球的な視点で考えるきっかけを与えてくれた。メールリストは世界中の情報の中から、知っておく必要があると思うような記事をポストするようなメールリストだった。そこでの怒涛のようなメールのやり取りは、メンバーがアメリカ・イギリスなどに散らばっているせいもあって、必然的に24時間営業となってしまうのだ。
英語のままのメールも少なくないし、複雑な話もあった。それでも必死に追いつくべく論文を読み、考えを巡らした。その頃のぼくは、まだ区役所職員の仕事をしていて、昼間は職員として働き、夜は環境や開発のNPOに関わっていて、時間がなくて大変だった。寝る間も惜しんで原稿を読み、自分の思考をまとめようとしていた。
そんな大変なメールリストでのやり取りを続けている中で、坂本さんのとあるメールが気にかかった。当然落ち込むこともあると思うが、なんというか、そのメールはかすかな絶望の匂いがした。ぼくは自分からはあまりメールしようとはしないが、その時だけは坂本さんに個人メールを送った。「死にたいと思っているのではないですか」と心配してメールしたのだ。すぐに坂本さんは「確かにそう思っていたんだけど、なぜわかった?」というような返信をくれた。「いや何となく」としか答えられないのだが、他人の筆致を辿りながら読むようにしていると、わかるというよりその人の気持ちが乗り移ってくる。しかも坂本さんは正直な人で、自分を特別な人とは考えないタイプの人だからそうメールを返してくれたのかもしれない。
幸い、坂本さんはそれから再び元気になってくれた。そのメールリストの論考はその後「非戦」という本に昇華したのだが、主には星川さんと坂本さんの努力が大きかった。その本をプレスリリースすることになり、場所は国会にある会議室を使ってすることにした。そこで初めてメーリングリストのメンバーとお会いした。
記者会見の前、メンバー同士が初対面の中、坂本さんは誰もが知っているので除外して、「私は誰でしょう」ゲームをした。イベント後にはメンバーの事務所に行って飲み、そこで初めて各人がどういう人たちなのかを知り合った。
写真: 左 田中優 中央 坂本龍一氏 右 星川淳氏
ー中略ー
でも一つ心残りなことがある。坂本さんを襲った病魔は「直腸がん」だった。 大腸というのは免疫の七割を占めている重要な器官 で、その病魔は免疫力を低下させる。大腸はもともと重要すぎるほど重要な器官なのだ。そこではたくさんの大腸を支える微生物が働いていて、その菌の作り出すものがそのまま「神経伝達物質」として使われたりしている。この腸内細菌の構成こそが健康に大きな影響を及ぼしているのだ。
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