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【Vol.483】冷泉彰彦のプリンストン通信『場の共有こそ生産性の敵』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「日本でのスタートアップ、MIT引っ張ってきてもダメ」  MIT(マサチューセッツ工科大学)といえば、アメリカを代表する理工 系の研究・教育機関です。どうやら、その「日本校」を政府が誘致する方向 で動いているようで、そうした報道がチラチラ出始めています。キャンパス の立地としては、渋谷と目黒の間など具体的な場所まで取り沙汰されていま す。  JNN(日テレ系列)の報道によれば、こうした動きを熱心に推進してい るのは、岸田総理と萩生田経産相のようです。どちらも「一流の大学が来れ ばスタートアップが生まれる」という発想法から、MIT(やスタンフォー ド)の誘致を考えているようです。  確かにシリコンバレーの多くの企業は、その草創期には大学が大きく関わ っています。例えば、グーグルというのは、スタンフォードの学生であった ラリー・ペイジと、セルベイ・ブリンによるベンチャーが原点にあります。 フェイスブックは、ハーバードの「変人」であった数名の学生による「ほと んどイタズラ」のようなプロジェクトから生まれました。  そんなストーリーを念頭に、岸田氏や萩生田氏は一種の「あこがれ」を込 めて、大学の誘致を推進しているのだと思われます。そう言えば、亡くなっ た安倍元総理はシリコンバレーへ多くの日本の若者を送り込むとしていまし たが、そのプロジェクトで海を渡った人々はその後、どうなったのでしょう か。  とにかく、MIT誘致は日本でのスタートアップの拡大だ、岸田氏と萩生 田氏はそのように考えているようです。例えば、萩生田氏は(シリコンバレ ーには)「失敗を恐れない文化、失敗を糧にして再チャレンジで成功につな げる文化がある」としていますし、岸田氏に至っては「海外の一流大学の誘 致を含めたスタートアップキャンパス」を創設するとしています。初めて知 ったのですが、自民党にはスタートアップ推進議連というのがあるそうで、 その最高顧問の甘利明氏は「有名な大学が(日本に)行きたいともう言って きている。去年、一昨年あたりから。2年3年は、着手するのにかかるので はないか」という言い方で、具体化が進んでいることを明らかにしたそうで す。  これに加えて、政府は投資家を呼び込むなどし、スタートアップ企業が融 資を受けやすい環境づくりも行う方針で、担当大臣を置いた上でスタートア ップ10倍増に向けた具体策を議論するとも報じられています。  このストーリーですが、全体が非常に疑わしいと思います。とりあえず5 点指摘しておきたいと思います。  1点目は、どんな学生が来るのかということです。MIT日本校ができた として、そこに来る学生は「日本の中でダイレクトに海外を目指すほどでは ないが、とりあえず意識高い系の学生」「普通にアメリカの本校に入ってい るが、学内交換留学で半年とか1年は日本での学生生活をエンジョイしたい 層」「アメリカの本校志望だが、やや成績が足りなかったので日本校に入っ た層」という3種類になると思われます。  そう考えると、本格的にベンチャーの起業を目指す一方で、サイエンスや エンジリニアリングで一流の学力を持っている層が、好きで日本校に来て日 本で起業するというケースは少ないと考えられます。  2点目は、MITの側の思惑です。MITとしたら、2番目の「学内留学 先」として、何と言っても人気のある日本にキャンパスを持っておくことは 優秀な学生を引き抜くには有利になります。また、日本のキャンパスで研究 するとしたら、恐らくは最先端の部分としては素材や加工技術などに加えて、 アニメやゲームなど、現在でも日本が優位性を持っている分野、あるいは比 較文明論的な抽象的なテーマが主となる可能性があります。MITが来るか ら、先端技術が学べて、ベンチャーが育つという話には直結しないと思いま す。(続く)

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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