2023年 第21号 【長尾和宏の痛くない死に方】
長尾和宏です。今週も全国各地で地震が起きていますね。
阪神淡路大震災を経験した身としては、もう一度僕が生きている間に大地震が
来るのか……ととても暗い気持ちになります。
しかし生きるということは、それ自体がサバイバルです。天変地異、感染症、
事故や殺人から奇跡的に逃れてきたからこそ、今日まで生きている。
私たちは、全員がサバイバー。今生きているということはつまり、運がいい。
病気になったり事故に遭えば、自分の運命を嘆くでしょう。でもね、嘆いている
自分がいるということは、運よく今日も生きているということでもある。
こう書くと、尊厳死協会の副理事長のくせに、一日でも長く生きることが運は良い
人だとでもいうのか、と怒る人がいるかもしれない。しかし、そんなことを言って
いるのではない。ほんの少し前までは、長生きしたことが不幸だなどという価値観は
日本に、いや、世界中に存在しなかったはずです。
超高齢社会、多死社会という言葉はお先真っ暗…というイメージを僕たちに与えがち。
しかし、長生きできる社会というのは、全人類の長年の夢でもありました。
今から約1000年前、日本は平安時代のころになりますが、日本人の寿命は
男性が33歳、女性が27歳だったといわれています。平安時代の三大死因は、
結核、脚気、皮膚病だったそうです。このころの主食はヒエやアワといった
雑穀で、肉や魚が庶民の口に入ることはほとんどありませんでした。
たんぱく質を摂らなければ、人間はせいぜいこれくらいしか生きられないのでしょう。
世界の平均寿命を見ても、1000年前はどの地域も20代後半です。
その後、栄養面や衛生面が文明とともに進化をし、徐々に平均寿命は延びていき
ましたが、平均寿命が50歳を超えたのは、実は、戦後1947年になってから
のこと。そこから戦後の繁栄を経て、平均寿命が男女ともに80歳を超えたと発表
されたのは、2015年のこと。
30代→50代に延びるまで1000年近くかかっていたものが、
50代→80代に延びるまでにかかった時間は、たった60年である。スゴイ。
これは、医療の勝利、文明の勝利に他ならない。
僕らは1000年前のご先祖様の、3倍も生きることができる。
……僕が大好きな聖徳太子さんは48歳まで生きたというから、超ご長寿だった、と
いうことになる。肉を食べていたのかもしれない。
で、ここから僕の話。
先週、ニコニコ生放送や、このメルマガで、来月で長尾クリニックを丁寧し、町医者
から卒業をすると発表したところ、多くの方からメッセージを頂いた。
「65歳なんてまだ早い」「一生、かかりつけ医でいてほしい」「長尾先生は若いよ」
なんて、うれしい言葉を患者さんからもたくさんかけていただいて、毎日ホロリ、と
している。だけど、僕はもう50年も働き続けてきた。
人類の歴史上、後にも先にもないだろう平均寿命80代、人生100年時代という社会
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