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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.5.29 Vol.757
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【今週のコンテンツ】
特集
21世紀の社会に必要なのは「パワーバランス思考」である
〜〜〜現代はあらゆるところにトレードオフが満ちている
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
21世紀の社会に必要なのは「パワーバランス思考」である
〜〜〜現代はあらゆるところにトレードオフが満ちている
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わたしたちが生きている現代の社会はとても複雑で多様で、さまざまな物ごとが相互にからみ合っています。そういう複雑な社会では、なにかアクションを起こすと思わぬ余波が起きます。「こちらを立てればあちらが立たず」、英語でいえばトレードオフが生じてしまうのです。トレードオフというのは、なにかを達成しようとすると別のなにかが犠牲になってしまうことを意味しています。
近年でいちばんわかりやすかったトレードオフのケースは、新型コロナ感染症でしょう。感染を抑制しようとすると、経済がまわらなくなってしまう。経済をまわそうとすると、今度は感染が拡大してしまう。このトレードオフをなんとか抑え込もうと政府も自治体も企業も苦心惨憺しましたが、なかなかうまく行きませんでした。とはいえ諸外国にくらべれば日本は死者数は少なくすみ、補助金や給付金など巨額の財政投入で経済の破滅的な落ち込みも回避できたことを考えれば、「成功」とは言えずとも「失敗」というほどではなかったと言えるかもしれません。
「感染予防」と「経済をまわす」というトレードオフがあり、綱引きのように引っ張っています。運動会の綱引きなら、完全に引っ張ってしまって相手を崩れ落ちさせたチームが勝利となりますが、現実のトレードオフではそういうわけにはいきません。どちらにも完全に引きずり込まれないように、どのぐらい引っ張り合えばバランスを保てるのかを細かく計算しつつ、「引っ張り合っている状態」をとにかく維持することが必要なのです。
つまりは、パワー同士がバランスをとっている状態である「パワーバランス」を維持しなければならないということです。
このパワーバランスは、見ようによってはとても中途半端な状態にも映ります。批判も容易です。ひとつ例を挙げましょう。
2020年春、新型コロナで初めての緊急事態宣言が出されたとき、朝日新聞は社説でこう書きました。
「朝日新聞の社説は、市民の自由や権利を制限し、社会全体に閉塞感をもたらす緊急事態宣言には、慎重な判断が必要だと主張してきた。特措法にも『(自由と権利の)制限は必要最小限のものでなければならない』という『基本的人権の尊重』の項目がある。その重みを十分踏まえた対応を求める」
ところが翌春、2度目の緊急事態宣言が解除された際には、朝日新聞は同じ社説で「展望みえぬ宣言解除 再拡大阻止に全力をあげよ」と見出しを掲げ、こう書いています。
「新規感染者数の水準はなお高く、一部地域ではリバウンドの兆しがみえる。より感染力が強いとされる変異ウイルスの拡大も心配だ。にもかかわらず、菅首相は緊急事態宣言の全面解除に踏み切った。極めて重い政治責任を負ったといえる」
右に振れれば「左はどうなる!」と怒り、左に振れれば「右はどうなる!」と叱責する。どっちにしても批判ができてしまう、とても簡単なお仕事です。緊急事態宣言が出れば「人権侵害だ」「政府は追い込まれた」と叫び、緊急事態宣言が出てないと「感染が増えるのに大丈夫か」と懸念する。これでは「批判しやすいから批判してるだけ」と言われてもしかたないのではないでしょうか。
立憲民主党の福山哲郎・参議院議員も同じようなことをしています。2021年7月7日午後5時16分の福山氏のツイート。
「今日、7日の東京都の新型コロナウイルスの感染者は920人。明日は、このままなら議院運営委員会で、政府はまん延防止等重点措置の延長を決めると言われているが、本当に単なる延長でいいのだろうか。緊急事態宣言の再発令をすべきではないのか。オリンピックは目前である」
https://twitter.com/fuku_tetsu/status/1412686920010768384
同じ日の午後10時27分のツイート。先ほどのツイートからわずか5時間後です。
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