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ゼンネルトと隠れた性質と隠れた病気についてのルネサンス論争

BHのココロ
  • 2023/06/02
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今回は、2023年6月8・9日にドイツのゴータで開催されるダニエル・ゼンネルトについての国際会議で発表する予定の原稿を邦訳してお送りします。まだできたてのホヤホヤで、湯気が出ている状態です。 「ダニエル・ゼンネルトと隠れた性質と隠れた病気についてのルネサンス論争」 1. はじめに  初期近代ヨーロッパには、書題に「オカルト」occultus という語を採用した出版物がかなりの数にのぼった。コルネリウス・アグリッパ(Cornelius Agrippa, 1486-1535)の『隠秘哲学について』 De occulta philosophia(アントウェルペン、1531年;ケルン、1533年)はいうまでもなく、ラヴィヌス・レムニウス(Lavinus Lemnius, 1505-1569)の『自然の隠された驚異』(アントウェルペン、1559年)は多くの版や翻訳が出版され、そのジャンルではベストセラーとなった。  しかし「オカルト」という用語はこの時代に特有のものではない。中世のスコラ学者トマス・アクィナス(Thomas Aquinas, 1225-1274)の著作『自然の隠れた働きについて』に見出せるように、中世の知識人たちもこの用語を見慣れていた。 それは「隠れている」や「潜んでいる」、「不可視な」あるいは「未知な」、ときとして「理解不能な」や「説明不能な」ものを意味した。「知られた」や「可感の」ものを意味する「明瞭なもの」manifestus の反対語となる。  この概念に関連した問題のなかでは、現代の研究者たちは「隠れた性質」(qualitates occultae)、あるいは「隠れた特質」(proprietates occultae)に関心をよせ、一連の重要な研究を生んできた。これらの研究では、この問題を当時のヨーロッパの広範な知的地図に位置づけるために、古典的な源泉からその受容と変容にわたる多様な側面が扱われている。 またアイザック・ニュートン(Isaac Newton, 1643-1727)の支持者である神学者サミュエル・クラーク(Samuel Clarke, 1675-1729)とドイツの哲学者ライプニッツ(Gottfried Wilhelm Leibniz, 1646-1716)のあいだの論争を頂点とする科学革命の主人公たちの反応も分析されている。  これらの研究は、ルター派のヴィッテンべルク大学の医学教授ダニエル・ゼンネルト(Daniel Sennert, 1572-1637)にしばしば言及し、17世紀初頭における状況を示すために、彼の言葉を引用している。しかし彼らのアプローチには、ふたつの大きな問題を見出せるだろう:1)もともと密接に関係していた「隠れた病気」(morbi occulti)の概念を隠れた性質の概念から分離する傾向にあり、2)パリのジャン・フェルネル(Jean Fernel, 1497-1558)が果たした決定的な役割を見逃している。 隠れた病気とそれに密接に関連する隠れた性質についてのルネサンス論争は、このフランス人医学者によって幕開けされたのであり、彼の追走者と批判者たちによって16世紀後半から17世紀前半まで継続されたのだ。初期のキャリアから晩年の作品まで、ゼンネルトはこの主題に強い関心をもち、考察や執筆をつづけ、最後には隠れた病気と隠れた性質についての初期近代でもっとも浩瀚な著作のひとつを出版した。この著作は、これらの主題についての「百科事典」と呼べるものとなっている。  本発表は序論的な研究として、この問題にたいするゼンネルトの営為を歴史的・知的な文脈において理解するために、彼の先駆者であるフェルネルの議論に大きな紙幅をさく。そうすることで、隠れた性質と隠れた病気についての彼の探求のすべては、フェルネルによって幕開けされたルネサンス論争に呼応しているものだと理解されるだろう。

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