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パワーバランス思考とシステム思考という新たな対立軸を考える 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.758

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2023.6.5 Vol.578 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 パワーバランス思考とシステム思考という新たな対立軸を考える 〜〜〜「なにを重視するか」という視点で検討するこれからの議論 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 パワーバランス思考とシステム思考という新たな対立軸を考える 〜〜〜「なにを重視するか」という視点で検討するこれからの議論 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ いまの社会は「こちらを立てればあちらが立たず」というトレードオフに満ちています。自由や権利を求めるのは当たり前のことですが、だれかの自由やだれかの権利が、また別のだれかの自由やだれかの権利と衝突してしまうことが少なからず起きています。自由や権利がぶつかり合ってしまうのです。 このような場合に「どちらが正しいか」で争うのは無意味です。なぜならたいていの場合、どちらも「正しい」のだから。近年はここに「どちらが弱者か」という視点を持ちこみ、「弱者のほうが正しい。弱者の自由や権利を認めるべきで、強者は引っ込め」的な強引な論理が幅を利かせるようになりました。 しかし弱者・強者という立ち位置は、固定的なものではありません。強者と弱者は容易に反転し、つねに入れ替わるのです。弱者だったはずの人がメディアの力で居丈高になり……という光景を目にした人も多いでしょう。逆に昭和のころまでは典型的な強者だと思われていた「中年男性」が、貧困や恋愛下手などがあって弱者化しているのも21世紀的な光景です。 このように強弱が入れ替え可能であり、自由と権利がつねに衝突する世界を支配しているのは、パワーバランスの力学です。日本語で「力関係」と言い換えてもいいでしょう。 パワーバランスで大事なのは、均衡です。均衡を完全に崩してどちらかに倒れるがままにしてしまうのは、良くありません。弱者が強者化しているのに、そのまま放置していると、力はどんどん強くなって社会への支配度を高めてしまいます。力を行使することへの抑制が効かなくなってしまうのです。 逆に強者が弱者化しているのを放置しておくと、その人たちの自由や権利は失われてしまいます。途中で「はっこの人たちはもはや強者ではないのではないか」と社会が気づいて、救いの手を差し伸べなければならないのです。 トランスジェンダーとシス女性(性自認でも生まれ持った性別でも女性である人)の権利の衝突が問題になっていますが、これがまさにパワーバランス的思考で取り組むべき課題です。シス女性が入浴施設やトイレの使用方法について不安を感じ権利を冒されていると感じることに対し、「トランスジェンダーへの差別だ!」と非難しているだけでは物事は解決しません。トランスジェンダーは絶対的な弱者ではないのです。だから非難の応酬ではなく、権利の調整をしなければなりません。 いっぽうで多くのジェンダー不平等の問題のなかでも、選択的夫婦別姓と同性婚は、トランスジェンダー問題とはかなり状況が違います。なぜなら同性婚や選択的夫婦別姓には、自由や権利の衝突が存在しないからです。権利の衝突はなく、ただ価値観の相違があるだけです。たとえばゲイの人同士が同性婚をしたからといって、権利が侵害される人はいません。夫婦別姓を選んだからと言って、権利が侵害される人はいません。 ただ気をつけなければならないのは、価値観の押し付けが生じやすい場面もあることです。選択的夫婦別姓は「選択的」という冠詞がついていることでわかるように、夫婦の自由な選択で夫婦別姓も夫婦同姓も選べるという制度です。にもかかわらず、夫婦同姓を選んだ人を非難する人が現れてくる可能性がある。 それが端的に表れたのが、2020年に公開された映画『ドラえもん2』のポスターをめぐる事件でした。しずかちゃんがウェディングドレスを着て、のび太に書いた手紙が表現されています。その手紙の署名が「野比しずか」になっていたことに対して、「グロ……子供に古い価値観植え付けんといて」「女性はケア要員じゃないんだよ。しずかちゃん逃げて…」「きっちり女側が変えてるんじゃん。これが社会の圧力じゃなきゃ何?」といった批判がたくさん出ました。以下のTogetterにまとめられています。 ★「選択的」夫婦別姓なのに「野比」しずかに疑問 - Togetter https://togetter.com/li/1627335 「自分とは関係ない人たちが夫婦別姓を選ぶのは自由なはず」という理念は同時に、「その人たちが夫婦同姓を選ぶのも自由」であるはずです。しかし夫婦別姓という価値観で社会を染め抜きたい人たちが、自分たちの価値観とは異なる夫婦同姓という選択をする人を攻撃してしまったのです。こういう価値観の押しつけは避けなければなりません。 さて、ここからが本稿の本題です。選択的夫婦別姓に対しては、保守派からも反論が出ています。

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