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週刊Life is beautiful 2023年6月13日号:Apple Vision Pro、人工知能用言語 Mojo

週刊 Life is beautiful
今週のざっくばらん WWDC2023, Apple Vision Pro 6月5日にAppleのWWDC2023(開発者向けのイベント)が開催され、待望のAR/VRゴーグル、Vision Pro(Youtubeビデオへリンクなので音が出ます)が発表されました。発売は来年の頭、値段は$3,499、開発キットは今月末に配布されるそうです(残念ながら、開発者向けのデバイスの早期販売はアナウンスされませんでした)。 実際にデバイスを手に取っていないので、あまり断定的なことは言えませんが、発表されたスペックを見る限り、とてもAppleらしい、一切妥協しない完成度の高いデバイスというのが私の評価です。 ディスプレイや、4Kビデオ(3840x2160=約8,300ピクセル)を十分に表示できる2,300万ピクセル、Ambient Spacial Audio、プロセッサは(私のMacBook AirのM1より高性能な)M2とリアルタイム処理のためのR1というデュアル・チップ構成です。R1チップは、Vision Proが持つ12個のカメラ、5つのセンサー、6つのマイクから送られてくる情報を、わずか12msの遅延で処理します。 私は、これまで幾つかのVRグラスを試しましたが、どれも視野角が狭かったり、遅延が「VR酔い」を起こしたりと、幾つか不満な点がありましたが、Appleはそのあたりで一切の妥協をせず、最高のデバイスを提供することに決めたようです。 結果として、$3,499という、一般消費者には手が届かない値段になってしまいましたが、それほど大きな問題にはならないと私は見ています。というのも、Vision ProのMacの外付けディスプレイとして使う機能を搭載しており、これがあれば、オフィスだけでなく、どこにいても4Kの解像度を持つ巨大なディスプレイで仕事が出来るようになるのです。 この機能は、私のような開発者にとっては、とても魅力的です。特に私のように、シアトル、ハワイ、東京の3拠点で働く開発者にとっては、巨大なディスプレイを各所に設置することは現実的ではなく、$3,499はそれがもたらす生産性の向上を考えれば、決して高くない値段です。 Appleとしての狙いは、まずは私のような開発者にVision Proを(外付けディスプレイとして)購入してもらい、彼らにアプリを開発してもらいながら、必要な部品の生産量を増やして値段を下げていくことにあるのだと予想できます。 特に、エンタープライズ向けのAR/VR市場は、MicrosoftがHololensの開発から撤退してしまったこともあり、空白状態が出来ているので、Vision Proを入手した開発者たちがその市場向けのアプリを大量に作ってくれれば、Appleの独壇場になる可能性すらあります。 また、UIに関して、コントローラーは使わず、目の動き、音声と手のジェスチャーだけ、というのもAppleらしい(というか、Steve Jobsらしい)割り切りでとても良いと思います。特に音声入力の方は、LLMの急速な進化により、自然言語での入力が現実的になってきたので、普通の言葉で命令を与えながら(NLUI: Natural Language UI)、視線やジェスチャーで操作をする、という世界が実現するのだと思います。 ちなみに、WWDCのKeynoteでは、Mac/iPhone/iPad/Watchに関しても色々とアナウンスがありましたが、特筆すべきようなものはありませんでした。SiriにLLMを活用した大幅なアップデートが来るだろうと期待していましたが、それはありませんでした。ただし、キーボードからのオートコンプリートに(LLMにも使われている)Transferモデルが使われているという点は興味深いと思いました。 開発者向けのState of Unionでは、SwiftUIのプログラミングモデルにさらなる改良がされたというアナウンスがあったので、これは期待しても良いと感じています。以前のSwiftUIは、(UIに影響を与える)状態変数などの定義の仕方がとても煩雑だったので、それが簡略化されることは歓迎して良いと思います。 日本再生計画 以前から是非ともやりたいと考えていた河野太郎デジタル大臣との対談ができそうな気配になってきたので、どんな話をするかを考えています。行政のデジタル化の話だとか、マイナンバーカード関連のトラブルの話などは、他の人でも十分に出来るだろうから、私にしか出来ない話をしたいと考えています。それも、デジタル大臣である河野太郎氏に向けてではなく、総理大臣候補としての河野太郎氏に向けてのメッセージ、というかアイデアを送りたいと考えています。 アイデアは大きく分けて二つから構成されています。一つ目は、以前、このメルマガにも書いた、日本独自の高専を活用した、日本の教育改革であり、理科系人材の育成です。今の日本の教育は、企業による新卒一括採用とセットになり、大学受験の時点で子供達を「ふるい」にかけ、「学歴」を利用して大学卒業時に「正社員の地位」を得ることがゴールである、とても保守的なシステムになってしまっています。そのため、子どもたちは、貴重な中高の時期を過酷な受験勉強に費やし、創造性を伸ばす、さまざまな機会を通じて夢中になれるもの・得意なものを見つける、などの最も大切なことが出来なくなっています。 大学は、「研究機関」でもなければ「職業訓練校」でもない、単なる「受験の時点で優秀な生徒を集めて就職まで預かっておく」だけの付加価値の低いものに成り下がってしまいました。 この状況を打破するには、ソフトウェア・エンジニアを中心に、即戦力のエンジニアたちを5年間で育成する全寮制の高専を日本各地に作り、そこに理系頭を持つ子どもたちを幅広く受けた上で、英語で理数教育をし(オンラインコースとAIを使った個別指導を最大限活用します)、彼らを受験勉強から解放すると同時に、世界に通用する即戦力のエンジニアを大量に育成するしかないのです。 同時に「受験により子どもたちを『ふるい』にかけるだけ」のぬるま湯大学には消えてもらい、残った大学(および大学院)には、研究の道に進みたがる一部の学生だけを受け入れて「研究者」を育てる「研究機関」としての役割を果たしてもらいます。 日本政府は、私立助成金という形で莫大な税金を教育に流し込んでいますが、それは、大量の生徒を集める私立校ビジネスを補填しているだけであり、優秀な人材を生み出すことには全く繋がっていないことを反省すべきです。そのお金を、公立の高専に流し込み、そこで即戦力の理系エンジニアを大量に生み出すことこそが、日本の成長に繋がります。 二つ目は、私が自分の中では「老人Z」と呼んでいる日本のビジネスの再構築プランです(大友克洋原作のアニメのタイトルです)。 日本は、半導体、パソコン、スマホ、クラウドサービスなどで欧米に敗退し、最後の頼みの綱である自動車産業においても、EVシフトの波に乗り遅れて、大幅なシェアの損失は必然的な状況です。日本政府は巨額の税金を投じて、半導体産業の国内への呼び戻しを行おうとしていますが、それは半導体のサプライチェーンの確保のためであり、日本の国際競争力の強化には繋がりません。 ChatGPTの成功以来、「日本でもAIに投資すべきだ」という声が聞かれますが、今からそこに投資をしたところで、OpenAIやGoogleとまともに戦えるとは思えないし、オープンソースの波にも逆らえません。 そもそもAIも半導体も道具であり、ここから力を入れるべきなのは、AIや最新の半導体を活用したアプリケーションやサービスであり、そこに日本独自の競争力を持つ産業を育てるべきなのです。 産業はニーズのあるところに育つことを考えれば、注目すべきなのは、少子高齢化です。日本は、世界中で最も厳しい少子高齢化の波にさらされている国です。特にここ数年、出生数の減少率は加速しており、過去5年間の平均で、年に3.64%で減少しています。この勢いで減り続けると、2035年には出生数が50万人を切ることになります(政府の試算では2072年となっていますが、これは楽観的過ぎます)。このままでは、日本という国の存続すら危ぶまれる状況と言えます。 少子高齢化に伴う労働人口の減少は既に日本中でさまざまな歪みを生み出しています。老人介護の職場は常に人が不足しており、自分の親の介護のために仕事を辞めてしまう人たちすらいる状況です。高齢者ドライバーによる事故は後を絶たず、地方の交通インフラの崩壊とともに、老人たちの移動手段が失われる状況になっています。保育の場も常に人が不足しており、それを理由に子供を作らない女性が大勢います。 日本政府は、介護保険制度や子供手当でこれらの問題に対処していますが、単にお金をばら撒くだけでは根本的な解決にはなりません。お金を撒けば巻くだけ、そこにそのお金を当てにしたビジネスモデルが誕生するだけで、根本的な問題の解決にはならないし、何の価値も生み出しません。 今、日本がやるべきなのは、少子高齢化に伴って起こるさまざまな問題を「社会のニーズ」と捉え、そのニーズを解決する産業を育てることです。具体的な例をいくつか挙げると、 自動運転技術を活用した地方都市の高齢者向けの移動サービス 介護ロボット/育児ロボット 介護者を補助するウェアラブルロボット

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