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【Vol.353】「エジプト紀行」(6)

NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明
7/12/2023 Vol.353 「エジプト紀行」(6) 夜、疲れ切った家族を部屋に残し、ひとりルクソール神殿まで歩きます。ホテルから歩いて30分ほどの距離なはず。入場しての中身見学は多分、もうできない。営業時間は過ぎている。でも、外からライトアップされたオベリスクとラメセス2世の石造を見たかった。スマホはあえて部屋に置いていきました。ギザでの、カメラなしスフィンクス体験をもう一回したかった。僕たちはスマホの誕生以降、、特に僕のような仕事をしている人間は、その瞬間をカメラで切り取ることをメインにしてしまっている。去年、アラスカに行った際、山小屋でやっと出現したオーロラを撮りたくて、慌ててカメラを小屋に取りに行った妻が戻ってきた頃には、オーロラは消えていた。何のために、アラスカの山奥まできた?アホなのか。いつしか僕たちは、その場でしか見れない感じられない瞬間より、後々、思い返すための、後々、知り合いに自慢するための、記録収集に気持ちを奪われてしまっている。飲食店に行って熱々のペペロンチーノが出てきたら、その場で堪能しよう。出てきたと同時に「これ、お持ち帰りで!」というバカはいない。でも、海外旅行にきたら、そうなってないか。せっかくその場でしか味わえない感動を、その瞬間をないがしろにしている。ライトアップされたオベリスクは、とても荘厳で、畏怖的で、そして綺麗でした。カメラがない分、しっかり目に焼き付けようとする。ひょっとすると、写真を撮りまくったピラミッドや「王家の谷」は忘れるかもしれない。忘れても画像を保存してあるし。その画像が思い出を上塗りする。画像だけが思い出になってしまう。でも、朝靄の息子とふたりで見たスフィンクスと、夜半、ひとりで見た、このラメセスの石像は忘れない気がする。だって、忘れちゃったら、、、、画像ないし(笑) もう必死w 以前、日本のホテルで、ナイトプールで泳いでいると、とてもスタイルのいい、とても綺麗な女性がビキニで入ってきて、プールに一瞬入って、自撮りして、すぐ出ていった。滞在時間は大袈裟でなく2分もいなかった。インスタで「ナイトプールなう!楽しんでます!」と書いたところで、僕の方が楽しんでる。ひょっとすると大切なモーメントこそ、写真を撮らないべきなのかもしれない。楽しい時間はついつい写メを撮ることを忘れがちになる。撮っちゃいけないというわけではないけれど。ただ、大切な瞬間をより大切に感じるための優先順位の中で撮影は最後でいいかなと思う。ライトアップされたラメセス2世が「そりゃそうだ」とウインクしてきた(ように見えた) 翌朝、早朝、双子たちを部屋に残して、妻と近所に朝ごはんを買いに行きます。スフィクス参道をまっすぐに歩き、日本とは比べ物にならないインフラの悪い道路を歩く。鳩の群れが道に落ちた残骸をつついている。お店はどこも閉まっているも、バイクに乗ったおじさんが僕たちに話しかけてくる。「馬車か? タクシーか? ガイドか?」なんでもあるんだな。「ちがうよ、あさごはん食べにいってるから、おっちゃん、関係ないだろ」「朝食か、じゃあ、ついてこい」。。。なんでもあるんだな、ホント。 数メートル先のサンドイッチ屋さんの前で、彼はバイクを止め、手招きをしてくる。どうせまだ開いていない店が多い中、もう、ここでいいかと思ってしまう。エジプト数日目、もう客引きに慣れちゃってるよ。店の前まで行くと、営業しているようでしていない。まだ清掃中。「まだやってないじゃん」そういう僕に、「パン、サラダ、チキン、ポテト、それでいいか?」と聞いてくる。おっさん何者?笑 価格を聞くと、相場。いいよ、と答えると10分待て、といってバイクで去っていく。なんなんだろう。どこいくんだよ。他の店に行くのかな。まさか自宅でオヤジが作ってくるのかな。どちらにしてもお金はまだ渡してないから、ま、いいや。15分待って戻ってこなけりゃ、そのまま行けばいい。若手の弟子(?)みたいなのをひとり置いていっているが、15分以上待つつもりはなかった。 キッチリ10分後、バイクの手にブラウンバッグを持ったオヤジが戻ってくる。ホントに持ってきたの、朝食!? いちおう中身を確認する。うまそうではないが、まずそうでもない。オッケー、オッケーといって、当初、言われていた額を差し出す。日本円で600円くらい。多分、彼らにしては2日分の売上。ボラれているとはいえ、わざわざどこかまで行って、持ってきてくれたのだ。問題は、また商品を渡す段になって、違う金額をいい出すことだ。 どうせ倍くらいの額を要求すると構えていたら、妻からお金を受け取って、額を確認する間もなく、オッケー、とすぐにポケットにいれて、バイクに乗って、逃げるように去っていった。あら?珍しい。当初の約束の額以上を要求してこなかった客引きは初めてだ。珍しいこともあるもんだと、こどもたちが寝ているホテルに早速、帰る。帰宅する道すがら、どうも、ひっかかる。わざわざバイクで朝食をどこからかゲットして、戻ってきた。約束の額で引き渡すなんて、あり得るのか、エジプト人。かなりの駆け引きを覚悟していたのに、肩透かし。それにしても、渡した600円も、ほとんど確認せずに、ポケットに入れてたな。逃げるようにして去っていったし。若手の仲間をその場においてまで、、、、、あ。っ。! 違和感に気づき、妻の方に振り向く。「おまえ、いくら渡した!?」彼女は一瞬、キョトンとし、財布を確認して固まる。。。。桁をひとつ間違えて渡してる!!!! つまり、日本円でいうなら、百円札6枚を渡せばいいところを千円札6枚渡してる!この不味そうなチキンの朝食に6000円、、、、彼らにしてみれば、おそらく1ヶ月の収入。バカな日本人が桁を間違えて渡してきやがった。枚数を確認するまでもない。1枚だとしても、当初の約倍だ。 慌てて、元いた場所に、走る。まだ若手がいたはずだ。もちろん、その若い男の子ももういない。当然、探しようがない。。。全身の力が抜ける。金額の話ではない。 かつて世界を旅して、大損したことは何度もある。決して珍しいことではない。ハンブルグのバーでは数万円ぼったくられた。ニースでは妻が、20万円以上の現金が入った20万円以上する新品の財布を、スラれたこともある。そのときですら、命の危険がなくてよかったと笑った。でも、今回は違う。騙されてない。盗まれてない。勝手にこっちが、間違えて、勝手にこっちが渡した。日本以外の国で「多過ぎますよ」と返済してくれる国なんてこの世にない。つまり、トラベラーとしてこれ以上ないほど、恥ずかしく、いちばん冒してはいけないミス。初めて訪れる国の紙幣は確かにわかりづらい。どれが大きい単位で、どれがそうでもないか、すぐにはわからない。だからこそ、このケアレスミスは、いちばん旅素人が冒す恥ずかしい間違い。この上ない。だったらまだ10万円を強盗に遭った方がネタになる。今回の件は、ネタにもならない。メルマガ以外では書かない。話さない。オチは「バカじゃない?」で片付けられる。唖然とする妻をそのままナイル川に投げ捨てて帰ろうかという衝動をなんとか抑えました。 ホテルに戻ってチェックアウトをしたら、昨日の約束通り、客引きの彼が来ました。そして、当然のごとく、昨日の2倍の料金を言ってくる。当たり前の顔をして。憎めない。笑いが込み上げてくる。ここまでくると、もう感心しかない。こちらとしても想定済み。「わかった、1.5 倍で手を打とう。もしそれが嫌なら帰ってくれ。こっちはタクシーを捕まえるよ。それが3倍~4倍の料金にとっても構わない」そういうと、彼は渋々、1.5 倍の価格で手を打ちました。昨日の交渉価格より1.5倍なのに、なぜか渋々(笑)

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  • 全米発刊の邦字新聞「WEEKLY Biz」の発行人、高橋克明です。新聞紙面上や、「アメリカ部門」「マスコミ部門」でランキング1位になったブログでは伝えきれないニューヨークの最新事情、ハリウッドスターとのインタビューの裏側など、“ イマ”のアメリカをお伝えします。
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