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【Vol.488】冷泉彰彦のプリンストン通信『流動化するロシア情勢』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「アフリカ系人魚姫に反発、中韓世論の差別感情に懸念」  主役のアリエルにジョージア州出身のアフリカ系R&Bシンガーのハリー ・ベイリーを起用したディズニーの実写大作『リトル・マーメイド』はアメ リカ本国では、大ヒットとなっています。現在までの興収は全世界で500 ミリオン(約700億円)にまで到達、これは大ヒットと言っていいでしょ う。  成功の原因は、私は2つあると思います。まずベイリーの歌唱、演技、存 在感がディズニーのコアのファンに圧倒的に支持されたことがあります。も う1つは、前作のアニメ版でカリブの暖かい海に舞台を移した流れの延長に、 今回のアフリカ系のアリエル起用がピタッと「はまった」ということです。  公開前は人種差別的なニュアンスを込めて「#notmyariel」などという メッセージが拡散したのは事実ですが、現在はそうした批判や中傷を作品そ のものが乗り越えた感じです。日本でも好調ですが、これも同じ理由と思い ます。  ですが、各地からの報道によりますと、この実写版『リトル・マーメイ ド』は、中国や韓国では酷評されており、興行収入も伸びていないのだそう です。考えすぎかもしれませんが、こうした現象には懸念を感じます。  それは、一種の儒教的なヒエラルキー感覚として、白人優位の序列を受け 入れて、アジア人は白人に憧れる存在であり、場合によっては名誉白人的に 振る舞う、けれどもアフリカ系は見下すという、恐らくは「無意識の人種差 別」というような感覚です。  日本にも昔はそうした傾向はありましたが、今は様々な人権や人種問題へ の理解が進んで、そうした差別を乗り越えつつあります。一方で、中国や韓 国では、まだまだ強くそうした傾向があるとしたら非常に残念です。  韓国の場合は、この点に関して国を挙げての反省が行われたことがありま す。それは1992年のロス暴動に関してでした。  このロス暴動は、死者63、負傷2400、逮捕者1万2千を出した大規 模な事件です。きっかけとなったのは、ロドニー・キングというアフリカ系 男性が、白人警官に暴行を受けた事件ですが、それまでの時点でロスの黒人 社会に溜まっていた不満は韓国系に向けられたものでした。  つまり韓国系は黒人居住区に入ってきて食料品店などを営業しているが、 自分たちを見下して信用せず、武装しているというのです。実際に韓国系の 商店主が銃撃事件を起こしたりもしていました。その結果として、キング事 件を契機として暴動が発生すると、韓国系の食料品店などは攻撃のターゲッ トになって人種間の緊張が高まったのでした。  暴動鎮圧後に、事態を重く見た韓国の金泳三政権は「アフリカ系をリスペ クトせよ」という政策を国内でも、またアメリカの韓国系社会でも強く訴え ていました。特に「相手の目を見るのは失礼」という韓国の文化が、アフリ カ系には「俺たちの目をちゃんと見ないのは差別だ」という誤解になるので、 「真っ直ぐ目を見て話すように」というアドバイスが繰り返されたりしてい たのです。  こうした点については、韓国はやがて改善を見たというように感じていた のですが、今回の『リトル・マーメイド』への反発が強かったということを 聞いて、まだまだ時間がかかりそうという印象を持ちました。  中国の方は、アフリカ各国との関係緊密化を国策にしていますが、具体的 にアフリカに乗り込んで外交やビジネスを展開している人の中では、まだま だアフリカ人とのコミュニケーションが上手でない例があるようです。こち らは、仮にアフリカの中で、中国人による差別問題などが発生して、中国の アフリカ投資についてリターンが取れなくなるようですと世界的に影響があ ると思われます。こちらも注視していく必要がありそうです。

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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