気胸

ドクター畑地の診察室199.2023.7.9. 現役呼吸器内科、総合内科専門医 畑地治です。 世の中に「○○飲んだらすべての病気が治った」「○○制限食をとったらすべての人が健康になる」等、出鱈目情報が溢れています。現代医療の特徴は精密医療で万人に効くような治療はありません。治療方法は個人によって全く違います！おそらく日本で一番多くの呼吸器疾患患者（肺癌、喘息、COPD、肺炎など）を診療する専門医が、最先端の精密医療を解説＆ネットでは出し辛い医療や治療の裏側も配信！ https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身　自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け！radioを聴いてらんらんらん（lung lung lung）」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 気胸 　肺は肝臓などの臓器と違い、スポンジのような構造になっています。簡単に言うと、肺は風船のような構造の肺胞が集まってできた臓器であり、風船の外壁に当たる部分のことを臓側胸膜と言います。 　検診などで腫瘍が見つかった時には、その腫瘍が良性腫瘍なのか、癌などの悪性腫瘍なのか検査をしなければいけません。腫瘍の部位から組織を採取する必要があるわけですが、多くの場合、気管支鏡と言う検査を行い、腫瘍の組織を採取します。その際、胸膜から離れた、肺の内側に腫瘍がある場合、どれだけ組織を採取しても、気胸が起こる事はありません。しかしながら、肺の端、すなわち、胸膜直下に腫瘍がある場合は、そこから組織を採取すると、気胸が起こる可能性があります。胸膜が破れてしまうと、風船が割れるのと同じ理屈で、肺がペシャンコに潰れてしまうわけです。すなわち、気胸の成因は臓側胸膜に穴が開くことなのです。 　単純な風船の場合、1カ所でも穴が開くと、完全に風船が潰れてしまうわけですが、人間の肺はそのような構造になっておらず、また、組織の修復機構も働くため、臓側胸膜に少し穴が開いただけで、完全に潰れてしまう事は稀で、多くの場合、少し肺が縮む程度となります。 　少し肺が小さくなった程度の気胸ですと、特に何もしなくても傷が癒えるのと同じで穴が自然に塞がり、少しずつ肺が膨らんでいきます。そのため、特に処置は必要ありません。しかしながら、気胸のため、呼吸困難をきたすくらい肺が小さくなった場合ですと、そのまま放置する事は危険ですので、胸腔内に「トロッカー」と言う管を入れて、外部から陰圧をかけて肺を膨らますようにします。そのまま経過観察すると、健常者が気胸になった場合は、時間の経過とともに臓側胸膜の穴が塞がり、気胸が改善するわけです。 　怪我をした時、傷ができます。多くの場合、かさぶたができて、その傷が癒えていくわけですが、治癒過程でかさぶたが脱落してしまい、再び出血することは皆さんよく経験されると思います。気胸もそれと同じで、臓側胸膜にできた穴が治癒する過程で、また穴が空いてしまったり、一旦塞がった穴の部分はまた穴が開きやすくなっているため、塞がった穴が離開して再発することはしばしばあります。 　すんなり気胸が治癒する場合はいいのですが、再発を繰り返したり、あるいは（トロッカーを入れて肺を膨らます時）一週間以上穴が塞がらず、空気の漏れが続いている場合は、手術して、穴の空いた部分を切除します。 　さて、ここ数日というもの、多くの気胸の患者さんを診察しました。患者さんの多くは、COPDや間質性肺炎、感染症、肺癌など基礎疾患がある患者が多く、臓側面胸膜の穴自体が大きかったり、あるいは体が弱っており、組織修復能力が低い患者さんが多いため、単純にトロッカーを挿入して空気を抜くだけではうまくいきません。そのような患者さんの場合、呼吸機能が悪く、また、全身状態も悪いことが多いので、手術することもなかなか難しいです。 　元気な若年者に起こった気胸は治す事は簡単ですが、高齢の基礎疾患がある患者さんに起こった気胸はなかな治すことができず、命に関わることも多いのが現状です。基礎疾患がある患者さんの多くは喫煙者です。そのような状況を見るたび、禁煙の必要性を痛感する次第です。 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ドクター畑地の診察室199.2023.7.9号 毎週日曜日お昼に配信予定です。 次号は2023.7.16.です。 お問合せ、感想などはコチラまで zm.magumagu@gmail.com 畑地 治 https://zipangu-management.co.jp/culture_000/hataji/ 三重県出身　自治医科大学卒業後、僻地診療、三重大学勤務を経て、呼吸器内科医師となる 松阪市民病院院長 https ://mie-matsu-kokyuki.mars.bindcloud.jp/ https://www.facebook.com/mch.respiratory.center/ 診療の傍らFM三重で「肺、おさむに聴け！radioを聴いてらんらんらん（lung lung lung）」という毎週月曜日放送の番組を担当 https://fmmie.jp/program/getsumoku/hiosamu.php ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ ★お知らせ★ 好評発売中『ドクター畑地の診察室』バックナンバー 1ヶ月分を220円で購入できます。気になった号がある方はぜひチェックしてみてください！ ◆2023年06月 https://www.mag2.com/archives/0001688238/2023/06 2023/06/25 ジメジメした6月 2023/06/18 まだマスクか 2023/06/11 たかがスニーカー、されどスニーカー