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224回 テレビ局の許しがたい偽善

和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
またまた虐待で子どもが殺された。 神戸で6歳の男の子が虐待と思われる変死体で発見され、その母親とその兄弟あわせて4人が逮捕された。 この男の子の祖母がその兄弟に3か月にわたって監禁され鉄パイプのようなもので複数回殴ってけがをさせたという。そしてその祖母が逃げ出して事件が発覚した。男の子は住宅近くの草むらでスーツケースに入れられた遺体として発見された。 一家で男の子だけでなく、その祖母にあたる母親にまで暴行を繰り返していたという点で、これまでの虐待事件と比べてかなり奇異な事件だが、それ以上に、通常の虐待事件と違うのは、神戸市の子ども家庭局の丸山佳子副局長が会見で、「子どもさんの育てにくさがあるということを相談されまして、『できたら子ども家庭センターに一時保護してほしい』というようなお申し出がありました」と語ったことだ。 虐待事件において、虐待する親から児童相談所のようなところに相談に行き、施設で保護してほしいというのはかなりのレアケースだが、逆にいうと、親が反対する場合より、児童相談所などで引き取ることが容易だったはずだ。なのに、やらなかった。 この事件を取材した記者によると、「修ちゃんの遺体はすでに一部が腐敗した状態でした。死因は外傷性ショック。遺体には少なくとも10回以上も殴打の後があり、背中一面にあざが広がっていたそうです。」とのことでかなりひどい虐待を受けていたのは間違いない。 ややこしいのは、次男の男が兄弟を支配して、暴行させていたらしいということだが、この母親がそれまで虐待していなかったかはわからない。 一つは、この母親も虐待サバイバーで、自らが虐待されて育ったため、虐待の連鎖が起こっていた可能性も十分あり得ることだ。また、子供時代から学習障害(おそらくほかの発達障害も)抱えていたということで、子どもがなついているときにはいいが、そうでないときに虐待してしまう可能性も通常の人よりは高い。 また、別のニュースでは、ホスト遊びにハマってキャバクラで働くようになったという話も出ている。 相当な美人で、みんなの憧れだったという報じられ方もしているが、それでもクズな男にしがみつき、たかられてしまうというのは、生育環境で愛情不足だった時によくあるパターンだ。いくら美人でもてても、どういうわけか幸せで安定した愛情関係がもてない。 こういう人は子育てでも不安定になってしまう。 ということで、この弟が家に入り込むようになる前からこの母親は虐待していたのではないかと疑ってしまう。 ふだんはまともに愛情をかけて子どもを育てていたから、自分の虐待の自覚もあったのだろう。 家庭センターなるところに相談にいき、子どもを保護してほしいと頼んだのはこの次男が家に帰ってきてからのようだが、周囲の証言では、やはりそれ以前から虐待はあったようだ。保護を頼んだのもこのままでは子どもが死んでしまう、殺されてしまう、自分も虐待を続けてしまうということがわかっていたからのように思えてならない。 いずれにせよ、このときに家庭センターが保護していたら、死なないですんだというのが、テレビのコメンテーターたちの一致した意見だ。 ただ、私は彼らの発言に違和感を覚える。 虐待された子どもというのは、死ななければいいというものではないからだ。 私の知る虐待サバイバーの人は、「虐待が終わってからが地獄」とさえ書いている。 長年虐待を受けると、多くの場合、仮にサバイバーになっても、複雑性PTSDになってしまう。 この病名を皇族につけて大学の医学部の教授経験のない勤務医が世界精神保健連盟の理事長になったが、この病気は悪口を言われたくらいでなる病気ではなく、長期間虐待を受けたり、拷問を受けたりした人がなる病気だ。それ以上に、悪口を言われなくなるとすみやかに治る病気でなく、虐待を、たとえば家から独立したりして、受けなくなってもずっと、下手をすると一生続く病だ。 日本のように腕のいいカウンセラーや精神科医のいない国ではなおさらだ。 アメリカでは、虐待された子どもをみつけたら施設で育てるようにしているし、原則的に親元に返さないが、それは複雑性PTSDになると、一生まともな職業につけない可能性もあるし、それ以上に凶悪犯罪者になるリスクが一般の人よりはるかに高いからだ。 銃社会のアメリカでは、それが大量殺人にもつながってしまう。 この事件でも殺された男の子の祖母にあたる兄弟たちの母親は子供時代に相当な虐待をしていたようだ。鉄パイプで子どもを叩いて警察沙汰になったこともあるらしい。 それによって、この次男も、男の子の母親も複雑性PTSDになっていた可能性は小さくない。 実は、日本でも虐待サバイバーによる凄惨な事件はいくつも起こっている。 たとえば池田小学校事件の宅間守死刑囚も、光市の母子殺人の少年も親に激しい虐待を受けていたことが判明している。 でも、テレビのコメンテーターたちは、アメリカのように虐待を見つけたら原則的に施設で育てるべきだとは言わない。 犠牲者が出ても、そういう凶悪犯罪が起こったほうが視聴率が稼げるとでも思っているのかと正直、感じてしまう。

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  • 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
  • 世の中のいろいろなことにたった一つしかないと考え、それを信じ込むことは、前頭葉の老化を進め、脳に悪い。 また、それが行き詰った時に鬱になるというメンタルヘルスにも問題を生じる。 ところが日本では、テレビでもラジオでも、○○はいい、××は悪いと正解を求め、一方向性のオンパレードである。 そこで、私は、世間の人の言わない、別の考え方を提示して、考えるヒントを少しでも増やし、脳の老化予防、メンタルヘルス、頭の柔軟性を少しでもましになるように、テレビやラジオで言えない暴論も含めて、私の考える正解、私の本音を提供し続けていきたいと思う。 質問、相談、書いてほしいテーマ等、随時受付。
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