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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.7.17 Vol.764
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【今週のコンテンツ】
特集
ChatGPTなどの対話型AIの「現在地」を俯瞰して解説する
〜〜〜テクノロジーは熱狂期と幻滅期を繰り返し普及していく
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
ChatGPTなどの対話型AIの「現在地」を俯瞰して解説する
〜〜〜テクノロジーは熱狂期と幻滅期を繰り返し普及していく
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対話型AIのChatGPTが昨年の終わりに登場して、テクノロジーをめぐる状況は一変したように感じます。トレンドとして盛り上がりすぎた結果、「もう幻滅期に入った」という記事まで登場しています。
★「ChatGPT」検索数はピーク時の半分に、生成AIは幻滅期に突入?(日経ビジネス)
https://news.yahoo.co.jp/articles/34341536a05431f473982756118838926751fa12
ここで言う「幻滅期」は、有名なガートナー社のハイプサイクルというグラフで説明されているものです。新しいテクノロジーが登場すると、最初はブームになって熱狂するが、その時期をすぎると「なんか言われていたほどたいしたことない」「過剰に騒いでただけじゃないの」と人々が幻滅するようになり、ブームは終わる。しかしテクノロジーそのものはそれで終わったわけではなく、実はそこから先に具体的な導入事例が出てきたり、テクノロジーがこなれてきたりして本格的な普及期がやってくるのだ、という理論です。
最近のわかりやすい事例で言うと、メタバースが今まさに幻滅期の真っ最中。先月はビジネスインサイダー誌が「メタバースの終焉 ザッカーバーグがぶち上げたブームはテクノロジーの墓場へ」なんていう見出しの記事を配信していました。メタバースは昨年、フェイスブックがメタ社と改称したあたりから熱狂期に入り、しかし現実的にそれほど実用性のあるサービスもなければ機器もまだ高価で使い勝手も良くないことから、ChatGPTの登場ですっかり影が薄くなり幻滅期に入りました。
しかし先月はアップルがVRのヘッドマウントディスプレイ「Vision Pro」を発表するなど、この分野の開発や投資は進んでいます。技術がもう少しこなれ、Vision Proぐらいの高度な製品がiPhoneと同じぐらいの価格帯に下りてきて、より軽量コンパクトになってくるころには、メタバースも本格的な普及期に入っていくのではないかと思います。しかしまだかなり時間はかかりそう。
ChatGPTのような対話型AIも、同じようなハイプサイクルをたどる可能性は高いでしょう。すでにハルシネーション(AIがすぐにわかるようなウソを平気でつく問題)や、企業の機密情報を扱えないなどの問題が指摘され、「すぐにビジネスで活用できるわけじゃないじゃん」という空気が広がっています。実際、わたしもここ数か月企業向けのトークなどで対話型AIの話を求められることが多いのですが、質疑応答になると必ず勝ち誇ったように「ほら、ChatGPTはこんなにウソをつくじゃないですか!ほら!」
といろんなハルシネーション事例を挙げて迫ってくる人が一定数いて、閉口しています。さっきのトークの中ですでにハルシネーション説明してるじゃないですか。聴いてなかったんですか。
……話を戻しましょう。本稿では、対話型AIがいったいどのようにして生まれ、何をしようとしているのかという、現時点での「立っている場所」、現在地をわかりやすく解説してみたいと思います。ジャーナリストであるわたしが書いている記事なので、技術者視点ではなく、あくまでも社会からの視点です。
まず、前段の知識として現在のAIのテクノロジーがどのようになっているのかを解説していきましょう。
高性能なAIの実現は長く人類の夢で、コンピューターが登場した1950年代にはもう研究が始まっています。医療など特定の分野の知識をたくさん集めて医師と同じ判断をできるようにする「エキスパートシステム」などのアプローチが検討されましたが、あまりうまく行きませんでした。人間の専門家が持っている知識は不定形で、それをルール化してコンピューターに計算させようと思っても例外がたくさん出てしまい、満足な結果が得られなかったからです。
そこでルールではなく、現実の世界に存在するたくさんのデータを読み込ませ、これらのデータからさまざまな特徴や傾向を抽出するアプローチが考えられました。これが進化したものが、ChatGPTのベースになっている深層学習(ディープラーニング)です。
深層学習が画期的だったのは、大量のデータが目の前にあった時に、それらのデータにどのような特徴や傾向があるのかを自動的に抽出してくれるということです。人間の側が「こういう特徴があるのではないか」と仮説を立てる必要がなくなったということです。これはたいへん素晴らしい進化でした。なぜならAIは、人間でさえも見つけることができないような特徴・傾向を発見してくれるようになったからです。
そしてこの能力の獲得が、AIの社会への応用範囲を一気に広げることになります。囲碁や将棋のAIが人間の棋士が考えつかなかったような新しい手を編み出せるようになったのも、画像生成AIが有名アーティストの画風を真似ることができるようになったのも、いずれもこの深層学習の画期的な能力に由来しています。
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