メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

§ ぶんぶくちゃいな § vol.469 § リネット・オン「外注される鎮圧:中国はいかにして社会を制御しているのか」 §

§ 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ § 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな § vol.469 § 2023年7月22日発行 § 今週のトピック:リネット・オン「外注される鎮圧:中国はいかにして社会を制御し ているのか」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 中国では今、コロナ・パンデミックの不快な記憶を拭い去ろうと、必死に経済振興が語られている。しかし、政策措置解除直後は期待された経済の動きも思ったほど振るわず、先に発表された6月の経済実績は甚だその期待を裏切るものとなった。 大学新卒者を含む若年層の就職難は一部の研究者によると、実質40%にも達しているとされ、コロナ期に解雇された30代、40代の中年層の就職もスムーズに進まず、これまでブイブイ言わせてきた中産階級とその予備軍たちの間で言葉にできない不安が広がっている。 言葉にできない――のは当然ながら、「社会に不安を及ぼす」ことにつながることへのネガティブな感情である。ニュースは10年前に比べて明らかに不安要素を正面切って取り上げなくなり、かろうじて経済データが事務作業的に報道され、論じられるだけだ。未来予測に至っては、そこに不安要素があっても語られない。つまり、「言葉にできない」範囲がどんどん増えていることが、そんな報道記事を読んでいても伝わってくる。 一体、中国という国はいかにしてその鎮圧を成功サせているのか。上海という大都市を、「ロックダウン」という言葉を使わずに実質的にロックダウンしてしまったことからも、この国が持つ強大なパワーが伝わってくる。そこに住む人たちはいかにしてこの強大なパワーに封じ込められているのか…… 今回は、また「ニューヨーク・タイムズ」記者の袁莉さんのポッドキャスト「不明白播客」(わからないVlog)から、なんと「外注される鎮圧」についてのインタビューをご紹介する。袁莉さんについては、これまでの配信でもすでにご紹介しているのでここでは割愛する。 なお、以下文中[]で示したのは筆者による補足、さらに[*]と《》で日本人の一般読者の理解に必要と思われる事情の解説を追加した。 ============= ◎ポッドキャスト「不明白播客」:リネット・オン「外注される鎮圧:中国はいかにして社会を制御しているのか」 袁莉(以下、「袁」):こんにちは、「不明白博客」へようこそ! 進行役の袁莉です。 2022年5月、トロント大学政治学部のリネット・オン(王慧玲)教授の『Outsourcing Repression』[弾圧のアウトソーシング]が刊行されました。 オン教授は2011年から2019年までの間、何度も中国を訪れ、安徽省合肥市、北京市、雲南省昆明市、四川省成都市、河南省鄭州市、上海市、広東省広州市、天津市の8つの省都市及び直轄市で200件以上の現地調査を行い、同時に2000件以上のメディア報道をまとめたデータベースを構築しました。そして、こうした調査を通じ、中国の農村地区の都市化推進において、当局が「外注」[=アウトソーシング]という形で大規模な取り壊しや土地買収キャンペーンを展開してきたことを明らかにしました。 本日は同教授をお招きし、外部委託による弾圧とはなんなのか、それが中国共産党の統治においてどのような役割を果たしているのかについてお話を伺います。 教授、こんにちは。あなたの書名にも使われている「弾圧のアウトソーシング」という言葉に多くの人たちはたぶん困惑すると思うのですが、まず最初に「弾圧のアウトソーシング」とはどんなものなのか教えてください。 リネット・オン(以下、オン);「弾圧のアウトソーシング」とは、国が庶民への弾圧を第三者に外注することです。我われは一般に国家暴力機関というと警察や軍隊を思い浮かべますが、わたしの調査の結果分かったのは、中国における一般的な弾圧行為は一般人である地域関係者、つまり国家機関に属さない人たちに委託して行われるということでした。そうやって弾圧のコストを引き下げているのです。 袁:ご著書の最初のページによると、あなたはもともと経済テーマとして中国の都市化推進を研究していたのに、最終的に国による社会の抑圧というテーマ研究を行うようになるとは思っていなかったと書かれています。その変化はどのようにして起きたのですか? いつ頃、あなたはご自分の研究の方向性が変化していると気付いたのでしょう? オン:わたしは2012年に『Prosper & Perish』[繁栄と消失]という最初の著書を刊行しました。この本では、1990年代から2000年代初頭に中国の地方政府が郷鎮企業[*]の発展を通じてどのように収入を得てきたかを考察しました。その際、2011年と2012年にわたしは合肥と成都のいくつかの都市でフィールドワークを行ったのですが、地方政府の行為について尋ねた人たちがみな、ごろつきやマフィアに威嚇された、殴られた、といった出来事ばかりを話してくれました。 《郷鎮企業:郷や鎮といった農村部の行政単位が経営する集団所有制の企業のこと。人民公社が解体後、1980年代後半に農村を中心に広がった。》 それはなかなか興味深いことでした。だって、そんなこと、普段は映画の中でしか見たことがない。なぜそんな現象が起きているのか? 特に中国大陸では、国家は非常に大きな力を持っているはずなのに。 そこからわたしは、純粋にそれを描写するだけではなく、そんなごろつきやマフィアをテーマに研究を行い、理解したいと考えたのです。そこで非常に長い時間を使って考えた結果でした。さらに、国家と雇われたごろつきの関係についてまだきちんとした研究が行われていないことに気づき、決意しました。そこで2012年頃にその視点からさらに掘り下げた研究を始めたのです。 ●「ごろつき」を雇用する鎮圧

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • § 中 国 万 華 鏡 § 之 ぶんぶくちゃいな
  • 現代中国社会を理解するのに役立つ話題をご紹介します。中国理解という目的だけではなく、実際に現地の人たちとの会話に上がるだろうトピックや、日本で話題のニュースに対する現地の視点など、日本のメディア報道にはあまり出てこないけれど知っておくと役立つと思われる点を中心に。(現在、通常隔週2号の他に、臨時号2号の月合計4回配信中です)
  • 880円 / 月(税込)
  • 毎月 第1土曜日・第2土曜日・第4土曜日(祝祭日・年末年始を除く)