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ChatGPTの登場で、人間を超える知性「シンギュラリティ論争」が再燃している 佐々木俊尚の未来地図レポート Vol.765

佐々木俊尚の未来地図レポート
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 佐々木俊尚の未来地図レポート     2023.7.24 Vol.765 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ http://www.pressa.jp/ 【今週のコンテンツ】 特集 ChatGPTの登場で、人間を超える知性「シンギュラリティ論争」が再燃している 〜〜〜対話型AIの「現在地」と「未来」を俯瞰して解説する 未来地図キュレーション 佐々木俊尚からひとこと ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ■特集 ChatGPTの登場で、人間を超える知性「シンギュラリティ論争」が再燃している 〜〜〜対話型AIの「現在地」と「未来」を俯瞰して解説する ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ChatGPTの登場をきっかけに、シンギュラリティ論争がにわかに再燃しているようです。 シンギュラリティは「技術的特異点」と訳されており、日本語にしてもさらにわけがわからないのですが、一般的には「2045年には人間すべての知性を合わせた能力を超えるスーパー知性を持つAIが現れる」という仮説として知られています。このようなスーパー知性を持つAIは、汎用人工知能(AGI)と呼ばれていますが、現在のAIの主要なアプローチである深層学習はAGIではないと考えられてきました。 深層学習の能力はあくまでも「人間には見つけられないようなデータの特徴や傾向を発見してくれる」というものであって、人間のような自己意識やアハ体験や感情を持つわけではない。つまり深層学習は汎用人工知能(AGI)ではなく、特化型人工知能(ANI)でしかない。だからシンギュラリティは実現しない、という意見がわりに一般的でした。 ところが深層学習のデータ量を莫大にするLLM(大規模言語モデル)が考えられ、そこからChatGPTが誕生すると、「ChatGPTはひょっとしたらAGIになれるのではないか?」という疑念が生じてきました。深層学習でもデータを増やせばAGIと同じような振る舞いをするのではないか、という新たな論争になってきたのです。 この「新シンギュラリティ論争」には、二つのポイントがあるとわたしは捉えています。ひとつは、そもそも「知性」とは何かという議論。もうひとつは、人間の脳を深層学習は模倣できるのかどうかと言う生物学的な議論。このうち前者については、前号で論考いたしました。今回は後者の「人間の脳を深層学習は模倣できるのか?」について考えてみたいと思います。 そもそも深層学習は、ニューラルネットワークと呼ばれる脳の神経細胞を模したモデルによって構築されています。つまり深層学習は、わたしたちが脳で考えたり感じているのと同じ構造を持っているということ。 人間の脳にはニューロンと呼ばれる神経細胞が1000億から1500億あるとされています。ニューロンは他のニューロンとつながっており、その接続する部分をシナプスと言います。ひとつのニューロンには1万ぐらいのシナプスがあり、つまりひとつのニューロンが1万のニューロンともつながっている。つまりシナプスの数は全部で1000兆から1500兆ぐらいあることになります。頭がクラクラするような数字です。 ニューロンは1秒に1000回の電気信号を発生することができ、この電気信号がシナプスを通じて他のニューロンに送られます。他のニューロンがその電気信号を受けとって、自分も電気信号を発生するかどうかは、受けとった電気信号の「内容」によって変わります。つまりニューロンがシナプスで電気信号を受けとっても、電気信号の「内容」が軽いものだったら自分は電気信号を発生させず、その電気信号は後ろのニューロンには送られません。そうやって無数の電気信号が送られたり途中でストップしたりと、 網の目のように1000億個のニューロンの間に広がっていく。それが脳の働きを引き起こしているのです。 たとえば白い紙に「4」という数字を黒いペンで書いて、それをわたしたちが見るとする。私たちの眼の奥にある光の受容器が、白い紙と黒い文字の光を受信して、ニューロンに送ります。そのニューロンは電気信号を発生して、後ろのニューロンに次々と送っていく。後ろのニューロンは受けとった電気信号をさらに後ろに送ったり、あるいは送らなかったりする。その電気信号の流れのパターンが、「4」という文字の認識になって、わたしたちの脳は「4というペンで書かれた文字を見ている」という意識を形成するのです。 AIのニューラルネットワークは、このようなニューロンの網の目の電気信号の流れを数学的に再現したものです。データを入力する部分から、結果を出力する部分までのあいだに、シナプスに当たるような重みをつける計算式が何層にも重ねられているのです。 人間のニューロンの網の目は、いったい電気信号がどう流れたら、どういう認識や思考が生まれるのでしょうか。現時点では、これを解明するのは容易ではありません。なにしろニューロンは1000億個以上もあって、それぞれが1万のシナプスで他のニューロンとつながっているのです。脳のどのあたりの部位でどんなことをしているのかというざっくりした見当は、脳波の観測で可能です。しかし脳の働きをニューロン単位で観測するところまでは科学は進んでいません。 つい先日、たいへん興味深い翻訳書が刊行されました。 ★「ChatGPTの頭の中」(ハヤカワ新書) https://amzn.to/3Q3L2K9

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