メルマガ読むならアプリが便利
アプリで開く

228回 テレビマスコミの許されざる欺瞞

和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
前回、木原とかいう政治家の妻が、殺人の疑惑があるのに、テレビマスコミが報じようとしない問題について書いたが、ちょっと舌足らずなところがあったので追記したい。 たまたま、ラジオを聞いていたら、吉田照美氏が「これだけの疑惑なのに、どのテレビマスコミも、あるいはラジオも報じないのはどういうことだ」という疑問を呈した。 確かに芸能人の不倫であれ、自動車会社の不正であれ、これでもかといわんばかりにコテンパンに叩く、テレビマスコミが、この件についてだんまりを決め込むことは明らかに不自然だ。 これについて、そのラジオ番組の局アナが応戦した。 「殺人犯という決めつけはよくない。ことがことだけに疑惑を向けられた人の人権に配慮しなければいけないし、もし違っていたら取り返しがつかない」という趣旨の話をしていた。 吉田氏も政治家なのだから、疑惑にきちんと答えないといけないとは触れたが、それ以上のツッコミはなかった。 疑われている人の人権といわれたら、確かに反論は難しい。 しかし、それなら警察が逮捕した人間だって推定無罪なのに、犯人扱いして、ボロクソにいうのにも筋が通らない。 警察が逮捕した以上、その人は限りなく疑わしく、犯人扱いしてもよいということがマスコミの綱領なら司法はいらないし、推定無罪の原則などない。 実は、私は、日本も法治国家である以上、推定無罪の原則は守られるべきだと考えている。 裁判で判決が確定するまでは報道しないのが原則だとも思っている。 それが法治国家と三権分立国家の原則だ。 ましてや、裁判員の制度が導入されているのだから、彼らに予断を与えると人の命を奪いかねない。 冤罪を避け、誤って人を死刑にしないためにも、報道があるべき姿を考えたほうがいい。偉い人の奥さんだけは、あるいは偉い人本人だけは人権を配慮するというのは、どうしても納得しにくい。 ただ、私はこの事件については、報道すべきことがあると考えている。 大塚署の女性刑事が、この事件にからんだ重要な証言を引き出し、再捜査が開始されたのに、なぜかその女性刑事が配置換えにされているし、突然、捜査が事実上打ち切られているし、さらに現職の警察庁長官が、そんなに調べる時間もないはずなのに、「事件性がない」とコメントしている。 これらのことは、政治が警察の捜査に介入したと疑われても仕方のないことの連続だ。 加害者の人権に関係なく、これらのことについての説明責任は政府にあるはずだ。 すべて偶然ですというかもしれない。 少なくとも、配置換えも捜査の打ち切りも偶然だとか現場の判断で済ますなら、それを記者会見すればいい。 さすがに記者会見の内容は、テレビでも報じないわけにいかないだろう。 あとは国民が不自然と思うかどうかの問題だ。 あるいは、警察庁長官の「事件性がない」というのも、どれだけ調べたかを文春の記者が聞けばいい。 答えられないことがあれば、ちゃんと調べもしないで「事件性がない」というのが日本の警察ですかとつっこめる。 実は、この事件は、ここまで権力側が動かなくても、筋の悪い事件だったようだ。 知り合いの元警察の偉い人に聞く限り、この事件は起訴できないというのが常識的な判断だ。 この政治家の妻が「殺しちゃった」ということを知り合いに話し、それをその知り合いが警察に証言したことから、不審な自殺がやはり殺人だということで再捜査が始まったわけだが、古い事件でもあり、証拠がなさすぎるというのが、その偉い人の話だった。 警察であれ、検察であれ、日本の場合は裁判で勝てそうな案件しか起訴しない。有罪率99%を守るのが使命だから、うまくやった人は起訴されないし、レイプ犯であっても絶対に勝てない限りは示談で済ませようとする。 被害者のことより、警察のメンツのほうが大切な組織なのだ。 だから私は木原という政治家やその取り巻きもジタバタしなかった方が賢かったと思う。ほっといても絶対起訴されない案件だし、担当刑事を変えるような捜査介入と思われても仕方がないことをしたことは、妻に疑惑があることと比べてはるかに追及がしやすいことなのだ。 政権交代レベルでなくても自民党がやばいくらいの負け方をしたときに、担当刑事を無理に変えたことが怪しいという話になりかねないし、警察庁長官だって、官房長官のように「個別の事案についてはコメントを差し控える」とか、「十分精査してからコメントする」とか言えばいいものを、さっさと事件性がないと断言したから、よけいに疑惑が生じる。 話は変わるが、この警察庁長官や前の中村格のようにマスコミ的には飛んでもない悪党と思われる人が警察内部や検察にはとても評判のいい人で、仕事ができる人と聞いた。 彼らの基準がどんなものかはわからないが、政治家だけでなく、その業界から評判がいい。政治家に媚びを売ったから出世したのではないというのが、私に聞こえてくる範囲の評価である。 だとすると、中村格にしても、この露木という長官にしても、わざわざ政権に受けるために行動をしなかったほうがよかったように思えてならない。中村格は、安倍氏の暗殺の際に、伊藤詩織事件が世界中のマスコミに蒸し返された。逮捕状のもみつぶしをしなければ、優秀な警察庁長官ですみ、やめたときも可哀そうという声が上がっただろうが、一部のウヨクを除いては可哀そうと誰も言わない。露木氏にしても、今回慌てて、事件性がないといったことで、捜査官の反感を買って、文春で実名告白されてしまったし、かえって政府の介入の疑惑を深めてしまった。 警察官僚なのだから、もっときちんとした危機管理のテクニックをもってほしい。 ついでにいうと、 テレビは圧力があったとは言わないだろうが、テレビマスコミが報道しない不自然さもかえって疑わしさを強めてしまう。 そして、ビッグモーターや精神科医の殺人事件、実は前から警察がわかっていたことが、なぜかこのタイミングで一気に警察や役所が動いて、テレビマスコミは、いいネタが提供されたので、官房副長官の疑惑や捜査介入の疑惑に対して報じないことの言い訳ができる。 こういうことをいいことに巨悪につっこめないテレビマスコミが情けないが。

この続きを見るには

この記事は約 NaN 分で読めます( NaN 文字 / 画像 NaN 枚)
これはバックナンバーです
  • シェアする
まぐまぐリーダーアプリ ダウンロードはこちら
  • 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
  • 世の中のいろいろなことにたった一つしかないと考え、それを信じ込むことは、前頭葉の老化を進め、脳に悪い。 また、それが行き詰った時に鬱になるというメンタルヘルスにも問題を生じる。 ところが日本では、テレビでもラジオでも、○○はいい、××は悪いと正解を求め、一方向性のオンパレードである。 そこで、私は、世間の人の言わない、別の考え方を提示して、考えるヒントを少しでも増やし、脳の老化予防、メンタルヘルス、頭の柔軟性を少しでもましになるように、テレビやラジオで言えない暴論も含めて、私の考える正解、私の本音を提供し続けていきたいと思う。 質問、相談、書いてほしいテーマ等、随時受付。
  • 880円 / 月(税込)
  • 毎週 土曜日(年末年始を除く)