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【Vol.495】冷泉彰彦のプリンストン通信『映画『バービー』の到達点』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「なでしこ敗戦、メンタルの総量負け」  スウェーデン戦は、ゴチャゴチャな感じの試合でした。どんな見方をして も、好ゲームとは言えないと思います。まず、全日本に関しては、前半の戦 いが非常に厳しいものでした。ラインが全く上げようがないぐらい押し込ま れながら、ポゼッションを延々と渡し続けるのでは、カウンターの機会も限 られるし、運動量の消耗もあるし最悪です。相手の高さを活かした攻撃を1 点で止めたのが救いというぐらい、前半は辛い戦いでした。  しかし、こういうことはあると思います。こういう試合を立て直して勝っ てゆく、そのような種類の強さというのも、この先の世界へ進むには必要だ からです。ですので、前半についてはもうクヨクヨ反省する必要はないと思 います。問題は、ハーフタイムでの修正の幅が取れていないことです。  これは、問題点を言語化して共有し、対策を言語から作戦に、言語から心 理に、そして身体的な反応へと具体化するスキルについて、相当な訓練不足 があるということです。これはスウェーデン戦の問題というよりも、パリ五 輪へ向けての課題になってきます。ということは、この課題が見えたという のは、収穫と考えるしかないと思います。  それとは別に、この試合が凡戦になったのは主審にも責任があると思いま す。笛が遅く、そしてファクトではなく、関係性で笛を吹く、では不公平か というと、そうではないのですが、とにかく精度が悪く、そのくせバランス を気にしすぎる主審でした。  例えば、プレーを停めて、3分前のPエリアのハンドを蒸し返して、PK を与えるという相手の2点目につながった判定はシステムの仕様のために仕 方がないのかもしれません。ですが、これに対するバランスを取るかのよう な植木選手への不自然なPKへの与え方、更にその植木選手に対して、さっ きは甘すぎたのでチャラにしたいという意図でもあるのか、厳しすぎるイエ ローの切り方など、一連のジャッジには一貫性が感じられません。  ですから、植木選手の絶妙なPKがバーに阻まれたのも、まあ運命として 仕方がないと思います。また、この時点まで、主審に翻弄されてきた中で、 曲がりなりにも試合を作ってきたことは、全日本としても善戦だと思います。  更に良かったのは、PKを外しても植木選手は下を向かなかったことです。 これが、全軍にいい影響を与えて、綺麗な攻撃につながり、林選手の完璧な シュートにつながったように見えました。  ところが、ここで、ヒドいことが起きました。全日本は1対2と追い上げ に成功し、相手のGKはショックで立ち上がれなくなっていたのです。ここ で、一気に攻撃モード全開、それこそ同点に追いついて勝ちに行くのと同じ ような熱量の高め方へ持っていく局面です。リーダーシップというのがある のであれば、そのように作動すべきだし、チームワークとかチームスポーツ というのは、そのようなメカニズムを持つ者に栄冠を与える仕組みだからで す。  何がヒドかったのかというと、0対2から1点入れたところで、感動して 泣いている選手が多かったということです。これは、かなりマズいことだと 思います。スタンドは良いんです。ベンチもまあ良いでしょう。ですが、ピ ッチの上で感動していてはダメです。あそこは貪欲さ一本で前を向く局面で しょう。  ですが、そうはできなかった、ということは、もうメンタルの総量を使い 果たし、その結果として運動量も残っていない、そういうことだと思います。 。ですから、その後の折角のロスタイム10分も、どちらかと言えばクロッ クが時を刻むだけになってしまいました。極めて残念です。  凡戦であり、その責任は主審にあるのは間違いありません。また、序盤の 全日本はやってはいけない戦いをやっていた、これも否定できない事実だと 思います。ですが、この2つがあったにしても、とにかく前半は2点のビハ インドで折り返したし、その後、87分には1点差に詰め寄ったのは大善戦 だと思います。  問題は、ハーフでの修正が追いつかなかったこと、1点差に追いついたと ころで感動して貪欲さを失ってしまった、というメンタルの総量不足、この 2つの点が勝敗を分けました。この2つの点を、どう乗り越えていくのか、 これは女子サッカーの問題を超えた、もっと大きな日本という文明に関わる 課題だと思います。  そのことを、ここまで見える化してくれたことだけでも、大きな戦果はあ ったのではないでしょうか。全日本女子の健闘を心から讃えたいと思います。

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  • 冷泉彰彦のプリンストン通信
  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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