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佐々木俊尚の未来地図レポート 2023.8.21 Vol.769
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【今週のコンテンツ】
特集
「脊髄反射的な平凡な感想」をじっくり素因数分解してみよう
〜〜〜SNS時代の「日本語の作文技術」について考える(第3回)
未来地図キュレーション
佐々木俊尚からひとこと
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■特集
「脊髄反射的な平凡な感想」をじっくり素因数分解してみよう
〜〜〜SNS時代の「日本語の作文技術」について考える(第3回)
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文章を書くときの文字量について考えてみましょう。
ツイッターは基本は140文字。このぐらいの分量なら、ほとんど脊髄反射だけで書けます。ツイッターには脊髄反射的なコメントがやたらと多いのは、140文字という制限があるからというのが大きいのではないかと思います。もしツイッターに「投稿は最低でも500文字」という制限があったら、脊髄反射コメントなど蔓延しなかったでしょう。ただしそんなツイッターは、そもそも流行らなかったとは思いますが(笑。
ウェブメディアで画面1枚に収まる程度のちょっとしたコラム原稿は、だいたい500〜1000文字ぐらいです。これだけの分量があると、脊髄反射だけでは書けません。自分の頭の中にいま浮かんでいる考えを、文章として固定していく能力が必要です。
とはいえ、500〜1000文字ぐらいの原稿なら全体の構成を考える必要はありません。「アイデア一発」で書けるからです。これが1500文字以上の文章になると、「アイデア一発」では難しくなり、原稿の全体の構成を考えなければならなくなります。
この「アイデア一発」というのは、どういうことでしょうか。原稿の例を挙げて説明します。以下は、とある紙のメディアにわたしが寄稿した文章です。
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東京と長野、福井の三か所に家を借り、移動しながら暮らす生活をわたしがスタートさせてすでに六年ぐらいになる。
新型コロナ禍で移動しにくい時期もあったけれども、おおむね月のうち東京で二週間、長野と福井で一週間ずつというサイクルで移動生活を続けている。多拠点移動生活の面白さはいくつかあるが、最大の感動は「暮らしのリセット感」である。たとえば東京に滞在していて、長野に移動する日が近づいてくると、その日を軸にして仕事も生活も回るようになる。「移動日までにこの仕事をやっつけてしまおう」「冷蔵庫の野菜と肉も食べきっておかなければ」
そして無事に完了し移動日を迎えると、気持ちはきれいにリセットされる。移動先の拠点では、ふたたびゼロから仕事も暮らしも始められるのだ。まるで短いゲームを繰り返し遊ぶようにして、人生が次々にリセットされていく気持ちよさは、多拠点生活ならではである。
「移動すること」の身体的・心理的ハードルを下げられていくことへの、何とも言えない気持ちよさもある。定住生活者がいざ旅行しようとすると、何かと面倒だ。所持品の準備や確認、旅行のスケジュールや地図の確認など、やらなければならないことはたくさんある。
しかし移動生活者にとっては、移動は当たり前の日常である。わたしが拠点間を移動する時、準備はほんの三十分もかからずに終わる。いつも移動時に持ち歩いているポーチ類とノートパソコンを大きめのバックパックに入れ、冷蔵庫に残っている肉と野菜をクーラーバッグに収納する。ただそれだけである。
移動に慣れていない定住生活者は、移動に疲れてしまう人が多い。鉄道の座席に座りっぱなしだったり、長時間のクルマのドライブは慣れないと疲れるのだ。しかし移動生活者は、どんな長時間の移動にも慣れている。長時間の移動そのものが楽しみでさえある。そのために日ごろからランニングなどのトレーニングも欠かさない。
なので移動先の拠点に到着すると、すぐさま次の行動を開始することもできる。心も身体も移動に最適化されているので、効率的なのである。
このようにして気楽に移動し、精神は次々とリセットされてフレッシュな気分が持続していく。有史以前の狩猟採集時代にはヒトは移動生活者だった。そのころのDNAが喜び湧き出すかのように、わたしは移動生活を続けているのである。
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読めばわかるとおり、この文章は三拠点移動生活の楽しさについて書いています。三拠点生活の楽しさは、「家から家へと移動することでリセット感があること」「体力・気力とも移動に慣れると、面倒な移動そのものも楽しくなる」という二点があると説明していますね。言ってしまえば、ただそれだけです。
つまりこの文章には「起承転結」や「序破急」のような構成はありません。「三拠点移動生活には二つの楽しさがある」というワンアイデアだけで書いているのです。こういう原稿のスタイルが、「アイデア一発」です。上記の原稿は1000文字足らずなので、「アイデア一発」でも書き切ることができるのです。
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