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【Vol.496】冷泉彰彦のプリンストン通信『核廃絶と核不拡散』

冷泉彰彦のプリンストン通信
「ふるさと納税に反対する」 どうしてこの「ふるさと納税」がいけないのかというと、理由はいくらで も挙げることができます。 1)地方税制を歪める。経済規模に応じて地方政府の行政サービスは必要に なるのに、都市の自治体に入るべき金が地方に流れてしまう。特に、東京は 今後、引退世代の単身家庭が激増するので金を貯め込んでおく必要があるの に、コロナで知事がバラマキを行った結果、財政規律はユルユルになってお り、「ふるさと納税」など一刻も早く止めないと、近未来に破綻自治体にな ってしまう。 2)正規の税収でない「お土産物を倍の値段で売った」上がりの半額を、地 方の自治体は手にするが、それで地方経済が復活するわけでも、地方の消滅 可能性都市が延命するわけでもない。ゾンビはゾンビなのに、かえって整理 統合を先送りするだけ。 3)仮に大都市は「ふるさと納税」で税収が流出しても「やって行ける」の であれば、リストラして「小さな政府」にすることで、税率を下げるべき。 とにかく税制と、歳出のコントロールということがセットで政策論争を経て、 実施されるべきスキームが、メチャクチャになっている。 4)例えば子どもが2人とか3人などいて、教育をはじめとした地域のサー ビスを受けているとか、高齢世帯で地域の福祉に頼っている場合でも「ふる さと納税」で、その地域の納税を部分的に回避するというのは、全くのモラ ルハザード。  他にもあると思いますが、とにかくロクな政策ではありません。一刻も早 く止めるべきなのですが、驚いたことに菅義偉前総理は、この8月19日に 長野市で講演し、自分が総務大臣の時代に提唱した「ふるさと納税」の規模 について、「総額2兆円という目標は必要だ。自然にそうなっていくことが 望ましい」と述べたそうです。  報道によれば、ふるさと納税制度に基づく2022年度の寄付総額は96 54億円だったそうですから、2兆円を目指すというのは、今から更に倍増 させるということです。これはもう異常としか言いようがありません。  人気取りになるというのは、分かります。住民税の負担に嫌悪感を持って いる都市の住民、特に現在すでに「ふるさと納税」をしていて、制度上の上 限アップがあればいいと思っている人には「とりあえずトク」だということ になるでしょう。また「税収がダメダメ」だが「ふるさと納税」で何とか自 治体の財政をまかなっている地域では、額が増えるのは大歓迎だと思います。  ですが、全体としてはもう無理なのです。大都市はやがて人口高齢化で税 収が枯渇し、歳出が激増します。地方の多くの地域では、鉄道を剥がしても バスの運転手がいないので、人が住めない地域が出てきます。橋の架替えや 水道管の総取り替えなども、大変で、人口減の中では多少「ふるさと納税」 のカネが入っただけでは、どうしようもない自治体も増えます。  とにかく、都市にはもう余裕はありません。そして地方の多くの自治体は、 役場だけでなく、居住地の統合と集中へと進むフェーズに入っています。そ んな中で、税収については、納税地と行政サービスの還元を一致させて、成 立しない部分は切る、成立する部分、どうしても守らねばならない部分は守 るということを、真剣にやっていかなくてはなりません。(以下略)

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  • アメリカ北東部のプリンストンからの「定点観測」です。テーマは2つ、 「アメリカでの文脈」をお伝えする。 「日本を少し離れて」見つめる。 この2つを内に秘めながら、政治経済からエンタメ、スポーツ、コミュニケーション論まで多角的な情報をお届けします。 定点観測を名乗る以上、できるだけブレのないディスカッションを続けていきたいと考えます。そのためにも、私に質問のある方はメルマガに記載のアドレスにご返信ください。メルマガ内公開でお答えしてゆきます。但し、必ずしも全ての質問に答えられるわけではありませんのでご了承ください。
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