池田清彦のやせ我慢日記
/ 2023年8月25日発行 /Vol.246
INDEX
【1】やせ我慢日記~対馬に虫採りに行く~
【2】生物学もの知り帖~生物多様性を推進した能動的適応~
【3】Q&A
【4】お知らせ
『対馬に虫採りに行く』
前回、対馬の昆虫と哺乳類の特徴について述べたが、今回は養老孟司と対馬に虫採りに行った話をしよう。NHK BSの取材ということでディレクターとカメラマン付きの虫採りであるが、養老さんも僕も虫採りが楽しければ、後のことはどうでもいい口なので、ギャラリーがいてもあまり気にならない。それに、私はテレビは基本的に見ないし、BSは契約していないので、自分が出演する番組も見ないと思う。そういうことに興味がないのである。
養老さんと虫採りに行くのは久しぶりだ。柴谷篤弘が主宰した構造主義生物学の第1回シンポジウム(1986年)で初めてお会いして以来、養老さんが昆虫に興味があることが分かり、会うたびに虫の話をしていた。まだ現役の東大の医学部の教授であったので、思うように虫採りにも行けずに、フラストレーションが溜まっていたのであろう。定年を数年残して、東大教授を辞めてしまった。おそらく、自由に虫採りに行きたくて、辞職したのだと思う。
辞めた後で、見た空の色が今までになくきれいだったと言っていたので、よほどのストレスだったのだろう。私の方は、早稲田の教授を定年になった後に見た空の色も、以前と変わりがなかったので、東大の医学部の教授は大変なんだなと思った次第である。この頃から、養老さんを誘って頻繁に東南アジアに虫採りに行くようになった。
コロナ禍の少し前までは、タイ、べトナム、ラオス、台湾などに、年に数回は出かけていた。養老さんは蝶や蛾にはあまり興味がないようで、採るのはもっぱら甲虫、特にゾウムシである。私は、カミキリムシとクワガタムシが特に好きで、蝶や蛾も嫌いではない。だから採り方も違うし、目の付け所も違う。一緒に虫採りに行っても競合しないところがいい。二人ともいい加減な虫採りで、目的の虫を是が非でも採るといった執念がないところも気が合ったのかもしれない。
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