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第229号 世界はそれを汚染水と呼ぶ/父さんの影響、母さんの影響/新豆腐/前口上の補足

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  • 2023/09/06
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「世界はそれを汚染水と呼ぶ」 8月31日、野村哲郎農林水産大臣が、福島第1原発に溜まり続けている自称「処理水」のことを、ついウッカリと「汚染水」と言ってしまったため、四方八方から集中砲火を浴びて大炎上しました。しかし、任命した大臣が次々と不祥事を起こすことでお馴染みの岸田文雄首相は慣れたもので、自身の任命責任を問われる前にマッハの速さで「謝罪と発言の撤回」を指示しました。 そして、野村大臣もマッハの速さで官僚に書かせた謝罪文を棒読みし、その「謝罪なのに顔を上げずに原稿を棒読みする」という態度が批判されるという、もはや、これまで何度見せられたか忘れるほどの自民党政権の伝統芸、そして、その様式美を披露してくれました。 ま、この野村大臣に関しては、中国が日本産水産物の輸入を全面禁止した件について、8月25日の閣議後の記者会見で「大変驚いた。全く想定していなかった」と述べたため、「おいおい!そんな認識で農水大臣やってたのかよ?」と全国からツッコミが炸裂し、すでに大炎上のフラグが立っていました。ですから、今回のウッカリ発言も既定路線だったと思います。しかし、「世界中が日本の海洋放出を理解しているのに、中国だけが『処理水』を『汚染水』と言い続けて風評被害を広げている」というシナリオで突き進みたい岸田首相にとって、この担当大臣による「汚染水発言」は、痛すぎるアクシデントとなってしまいました。 でも、これは岸田首相が悪いのです。日本が海洋放出をすれば、中国が猛反発することなど子どもにだって分かること。本来なら何カ月も前に外相を訪中させ、次に経産省、環境相、農水相などを訪中させ、十分に下地を作った上で仕上げに岸田首相が訪中し、トップ会談で根回ししておく。そうすれば、少なくともここまでコジレることはなかったと思います。 さらに言えば、ロシアのウクライナ侵攻以降、西側諸国と社会主義国との対立の構図が鮮明になりましたが、それでも冷戦に突入しないのは、米中しかり、日中しかり、双方の国に利益のある経済的外交関係があるからです。それなのに、中国に何の根回しもせずに海洋放出を強行し、福島県産だけでなく全国の水産物の輸入を禁止させられるなんて、これは日本にとって経済面だけでなく国防の面でも大きなマイナスです。 それもこれも、岸田首相が韓国とのすり合わせばかりを重視し、中国を軽視したことが原因です。とても外相経験者とは思えないほど低レベルなシロート外交です。でも、わざわざ福島まで行ったのに福島漁連の人たちには会わず、地元の人たちにさえ最低限の説明もしなかった岸田首相に、他国への事前の根回しを期待するのは、カナブンに微分積分の問題を解かせるような話、最初から無理があったのです。(ちなみに「カナブンに微分積分」はラップのように韻を踏んでみました、笑) ま、それはそれとして、「処理水」を「汚染水」と言っているのは、本当に中国だけなのでしょうか?‥‥というわけで、まずは大まかな流れを説明しますが、ずっと「汚染水」と呼ばれていたものが、突然「処理水」という呼び名に変更されたのは、菅義偉政権下の2021年4月でした。海洋放出を強行決定した菅義偉首相は、「汚染水」という呼び名のままでは海洋放出の実現への足かせになると判断し、今後は「処理水」という呼び名に統一するようにと、記者クラブを使ってメディアに指示したのです。 これを受けたNHKは、国内報道はそれまでの「放射能汚染水」を「処理水」に、国際報道はそれまでの「radioactive water(放射能汚染水)」を「reated water(処理水)」に、それぞれ変更しました。民放各局、新聞各紙も同様でした。 また、就任直後のジョー・バイデン米大統領も、日本政府の方針に理解を示しました。そして、アメリカのメディアもそれに忖度する形で、CNNニュースやニューヨークタイムズ紙などは「reated water(処理水)」や「treated radioactive water(処理された放射能汚染水)」という表現を使うようになりました。ワシントンポスト紙は、汚染されているかどうかを限定しない「Fukushima nuclear plant water(福島原発水)」という中立的な表現を用いるようになりました。 しかし、アメリカのメディアも、すべてが右へ倣えというわけではありません。シアトルタイムズ紙は、それまでと同じく「radioactive wastewater(放射能汚染水)」という表現を使い続けただけでなく、日本の海洋放出を批判する記事を掲載しました。これは、シアトルタイムズ紙が中央の影響を受けない独立系のローカル紙だからで、同様の論調のローカル紙は複数あります。 イギリスでも、BBCニュース、ロイター通信、ガーディアン紙を始め、ほとんどのメディアがそれまで通りに「contaminated water(汚染水)」という表現を使い続けています。一例を挙げますが、今回、日本が8月24日に海洋放出を始めた3日後の8月27日付のロイター通信の「Japan says seawater radioactivity below limits near Fukushima(福島の海水の放射能は基準値を下回っていると日本が発表)」という記事の中では、次のように書かれています。 「Tepco is storing about 1.3 million tonnes of the contaminated water, enough to fill 500 Olympic-sized swimming pools, in tanks on the site. 」 (東京電力は、オリンピックサイズのプール500個分を満たすのに十分な約130万トンもの汚染水を敷地内のタンクに保管している。) 記事自体は、「東電はトリチウム以外の放射性物質は含まれていないと説明している」「トリチウムも環境や人体に影響のないレベルまで希釈されていると説明している」など、日本の報道と同様の内容ですが、タンクに貯蔵されている水に関しては、これまで通りに「contaminated water(汚染水)」なのです。 また、脱原発を達成したドイツのドイツ通信社の記事では、「radioactive water(放射能汚染水)」と、さらに踏み込んだ表現を使っています。岸田首相は、「汚染水」と言っただけの野村大臣にマッハで謝罪・撤回させたのですから、こうしたイギリスやドイツのメディアにも抗議すべきなのでは?‥‥なんて思ってしまいました。 ま、そもそもの話、岸田首相は福島漁連との6年前の「関係者の理解なしに、いかなる処分も行なわない」という政府の約束を反故にし、地元への丁寧な説明もないままに海洋放出を強行したのですから、本来なら国民の怒りは岸田政権へ向くところでした。しかし、中国が「日本の水産物の全面輸入禁止」という過剰反応に出て、この問題を政治利用し始めたので、岸田首相は「渡りに船」とばかりに、これに便乗したわけです。

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