■絶対寝るべき理由
健やかで活力に満ちた生活をプレゼントしてくれるのが睡眠だ。ス
ポーツや食事も大切だが、安定した睡眠・覚醒リズムがもたらす休
息に注意を払うことは、健康な生活への最初で重要な一歩だ。
睡眠の最も優れた点は、無料ということだ。仮に余分にとったとし
ても、翌日、高いパフォーマンスという形で1000倍になって返っ
てくる点も魅力だ。
しかも、睡眠の改善は簡単にはじめられる。高級フィットネスクラ
ブも、リゾートホテルも不要だ。夜、心地よい自分のベッドにもぐ
り、目を閉じて、夢の国を訪れるだけでいいのだ。
こうした睡眠の役割の重要性を考えれば、睡眠のことをもっと気に
かけ、改善に真剣に取り組むべきだ。そのために必要なことを日々
の生活に取り入れて実行できる戦略を見つけるべきだ。
★
日中に吸収する情報量は多い。だから、1日が終わる頃には、脳は
エネルギーを使い果たしてしまう。残るのは、ゴミとして処理され
ねばならない残留物や廃棄物だ。
そこで、睡眠中に脳内では清掃プロセスが遂行され、廃棄物が大量
に搬出される。睡眠を十分にとらないと、脳内のゴミが除去されず、
脳の老化が早まり、ダメージを受けやすくなる。
睡眠で回復するのは脳だけではない。体のあらゆる器官が回復する。
たとえば消化器系や循環器系だ。こうした器官が日中滞りなく機能
するためにも、睡眠中の再生は不可欠なのだ。
さらに夜の休息中、体内ではメラトニンというホルモンが大量に分
泌される。メラトニンは、誤ってプログラムされた細胞を探し当て
る働きを持つ。このことは研究で明らかになっている。
さらに、睡眠中は覚醒時に比べ、体が有害な細菌やウイルスにさら
される可能性が圧倒的に少ない。そのため、睡眠の間は、免疫シス
テムは妨げられることなく、健康を保つ任務を遂行できるのだ。
★
睡眠不足は、長期的悪影響だけでなく、短期的にもマイナスの効果
を持つ。たとえば、睡眠を十分にとれなかった日は、学校や仕事で
のパフォーマンスが低下する。
睡眠不足は、集中力や創造性の欠如、衝動的な反応、記憶力の低下
を招くからだ。加えて、感情や思考、行動をコントロールする精神
機能(認知制御)も損なわれる。
そのため、状況を把握して適切なタイミングに適切な判断を下すこ
とが困難になる。これは、たとえば運転中、自分自身、そして周囲
の人に致命的な結末をもたらしかねない。
睡眠不足が引き起こすのは、パフォーマンスの低下だけではない。
感情面にも影響が出る。不安を感じやすく、衝動的で短気になり、
傷つきやすくなる。これらは、当然日常生活にも弊害をもたらす。
★
睡眠不足の影響は、個人のパフォーマンス低下や健康上の理由によ
る欠勤や欠席の増加にとどまらず、社会全体の損失につながる。こ
れが莫大な社会コストを生んでいる。
学術誌『スリープ』に発表された研究では、人口2500万人弱のオ
ーストラリアで、2016~2017年の間に睡眠不足によって生じた総
コストが試算されている。その額は450億米ドルにも及ぶ。
同研究の責任者は、似たような経済構造をもつほかの先進諸国でも
同様の傾向が見られるのではないかとの見解を示している。
さらに、世界中で睡眠不足という流行病が蔓延していると述べてい
る。その背景には、雇用主からのプレッシャーや家族や友人からの
社会的圧力、さらにソーシャルメディアの存在があると指摘する。
まさに、睡眠の価値を認識し、適切に対処すべき時が来ているのだ。
それが、個々人はもちろん、社会全体にもよい結果をもたらすこと
が間違いないのだ。
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