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前嶋和弘氏:党派性の暴走で民主主義の崩壊が進むアメリカと日本への教訓[マル激!メールマガジン]

マル激!メールマガジン
マル激!メールマガジン 2023年9月13日号 (発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ ) ——————————————————————————————————————— マル激トーク・オン・ディマンド(第1170回) 党派性の暴走で民主主義の崩壊が進むアメリカと日本への教訓 ゲスト:前嶋和弘氏(上智大学総合グローバル学部教授) ———————————————————————————————————————  アメリカの民主主義の根強い抵抗力や回復力を示す事例とされたウォーターゲート事件もペンタゴンペーパー事件も、もはや遠い昔の思い出になってしまったのだろうか。  アメリカの政治が異常な事態に陥っている。今、アメリカでは元大統領が4度起訴されても、現職大統領の息子に対する特別検察官の捜査が始まっても、最高裁判所の判事の接待漬けが明らかになり深刻な利益相反の実態が露呈しても、さらに公正取引委員会が巨大テック企業の市場独占に制約を課そうと動いても、そのすべてが党派性の文脈に落とし込まれ、敵陣営からの陰謀だとして一蹴されるようになってしまった。対立陣営が主導権を握る政府に逮捕され起訴されても、痛くも痒くもない。 なぜならば、それが党派性の文脈で捉えられることで自身の支持率はむしろ上昇し、結果的に権力の奪取を助けてくれる構造ができあがっているからだ。そのため、仮に現政権下で有罪判決を受けようが、そんなものは所詮陰謀に過ぎないのだから新しい政権の下で恩赦すればいいだけのことと受け止められているのだ。  アメリカでは今や何が正義なのかがまったく分からない状態に陥っている。普通に考えれば明らかに犯罪が成立する場合でも、それを追求する側が政治的な意図で動いていて、これは陰謀なんだと言い切れば、支持者の大半はそれを信じ、むしろ支持率が上がる。そんな政治文化が今や常態化している。  実際、トランプ元大統領は8月14日、2020年大統領選でのジョージア州での選挙不正をめぐって起訴された。トランプにとってはこれが4度目の起訴となる。元大統領が起訴されるというのは、もちろんアメリカ政治史上初めてのことであり、本来であれば未曾有の大事件だ。トランプは2024年の大統領選挙への出馬を表明しているが、これまでの常識では大統領候補が起訴されれば、大統領選挙はおろか政治生命にかかわる大きなスキャンダルにならなければおかしい。 ところがトランプの支持率は起訴されるたびに上昇を繰り返し、今や現職のバイデンと肩を並べるまでになっている。  そして、もし24年の大統領選挙でトランプが勝てば、トランプは自身を含め今回4つの事件で起訴された26人の仲間をすべて恩赦する意向だという。だから起訴されても有罪判決を受けても、まったく痛くも痒くもないどころか、そのおかげで支持率が上がり政権交代の可能性が上がるので、むしろこれを歓迎しているようにさえ見える。もしトランプが起訴されている4つの事件のすべてで有罪判決を受け、最高刑を受けた場合、その刑期は700年を超える。 しかし、トランプは仮に自分が収監されても刑務所の中から大統領選には出馬する意向だという。合衆国憲法は有罪判決を受けた人物や服役中の人物が大統領になることを禁じてはいないからだ。おそらく憲法はそのような事態を想定していなかったに違いない。  今、アメリカでは民主主義の行き過ぎで、国や州が2つの党派に分断され、例えば何度起訴されても共和党支持者のトランプ元大統領への支持率は常に5割をくだらない一方で、共和党支持者のバイデンに対する支持率はなんと2%にまで下がっている。つまり共和党支持者は無条件でトランプを信じ、無条件でバイデンの正当性を認めていないのだ。アメリカでここまで党派間の分断が進んだのは、奴隷制の是非をめぐりアメリカの南北が戦った南北戦争時以来と言われ、実際今のアメリカではいつ内戦が起きても不思議はないとまで指摘する識者もいる。  分断が極度に進めば、社会正義の概念さえ失われてしまう。それが今、われわれがアメリカの現状からくみ取らなければならない教訓なのではないか。  今回のマル激では、トランプ元大統領、バイデン大統領、最高裁判事のクラレンス・トーマス、連邦取引委員会(FTC)のリナ・カーン委員長の4人のキーパーソンを入口に、すべてが党派性の文脈に矮小化され、正義の定義を完全に失ってしまったかに見えるアメリカの現状を確認した上で、それが日本にとってどのような教訓を与えているかなどを、上智大学総合グローバル学部教授で稀代のアメリカウォッチャーの前嶋和弘氏と考えた。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 今週の論点 ・トランプはなぜ何度起訴されても支持率が下がらないのか ・全てが党派性で語られるアメリカ ・米最高裁判所の倫理の退廃 ・リナ・カーンは巨大企業になぜ勝てないのか +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ ■ トランプはなぜ何度起訴されても支持率が下がらないのか 神保: 今日は2023年9月5日の火曜日で、1170回目のマル激となります。今日はアメリカの話をしますが、トランプ大統領が4回目の起訴を受けたということで、情報をアップデートした方が良いかなと思います。こういう言い方はしたくないですが、今回はどこまでアメリカの破壊が進んでいるのかということを確認する回になると思います。ゲストは上智大学総合グローバル学部教授の前嶋和弘さんです。 今日は主に4人の人物からアメリカを見ていきたいと思います。トランプとバイデン、そしてクラレンス・トーマスとリナ・カーンです。なんだかんだ言ってアメリカ政治の半分は、トランプ元大統領を中心に回っているという状況は変わっていないですよね。 前嶋: そうですね。共和党は完全にトランプ党になっている部分があります。もちろんそうではないと言っている人もいますが、よくよく見るとトランプ党です。2020年選挙はバイデンが勝ったわけですが、共和党の7割はそれを信じていません。その数字はほとんど議会襲撃の時から変わっておらず、共和党の支持者を3割弱とすると、アメリカの人口の3割弱のうち、7割が選挙は嘘だったということを信じているということなので、すごい数ですよね。

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